患者さんに教える口腔癌・前がん病変セルフチェック法

患者さんに教える口腔癌・前がん病変セルフチェック法

口腔内は簡単に見ることができ、感覚は鋭敏ですから、早期に口腔内の疾患を発見することが可能です。しかしながら、実際に早期に発見される口腔癌を部位別で調べてみますと、歯肉は6%、頬粘膜は8%であり、最も発見されやすい舌においても23%と非常に低い割合です。

わが国の口腔癌の治癒率(がんを克服して治る確率)は、食道がんや肺がんに比べて非常に良好です。さらに米国の口腔癌の5年生存率は約50%ですが、本邦では早期癌で90%、進行癌で50%、平均すると約70%と諸外国に比べて非常に良好の成績となっています。このように口腔癌は早期に発見され早期に治療を行う場合には、予後の良い治癒が可能である疾患であります。

口腔癌が発生する前には、いわゆる“前癌病変”、“前癌状態”といわれるような粘膜病変が数年間続くことがあります。このような病変(たとえば白板症や扁平苔癬)を発見し、適切に治療および経過観察を行うことで、口腔癌の早期発見、治療やさらにその癌の発生を防ぐことも可能となります。

そこで患者に口腔内のセルフチェック法を指導することが口腔癌の早期発見に寄与することとなります。口腔内の診察をする機会の多い歯科医師の先生方により患者へ口腔内のセルフチェック法を指導することは、一番効率的でありかつ容易に早期の癌を発見することが可能であると思われます。そこで、この章では患者さんに教える口腔癌・前がん病変のセルフチェック法について述べていきます。

 

注意を要する口腔内の症状

患者さんにはどのような口腔内の症状があった場合に、注意しなければならないか、また歯科医師の診察が必要なのかまとめてみました。

口腔内の痛み

口腔癌の初期では痛みがあまり生じません。しかし、早期癌で口腔内に潰瘍やびらんが生じた場合や、進行癌で腫瘍が大きくなって神経を蝕み、セレトニンやブラジキニン等の疼痛物質が放出されると痛みが生じます。明らかなう蝕、根尖病巣、歯周病等の歯性の疾患や、アフタ性潰瘍、義歯性潰瘍等がみられない場合には、原因の探索を注意深く行う必要があります。

口内炎が2週間以上も経つのに治癒しない。

早期癌は口内炎や義歯による褥瘡性潰瘍と同じような病態を呈することがあります。通常の口内炎は、ステロイド剤の軟膏や含嗽剤若しくはトラネキサム酸の内服投与を行うことで症状が改善してきますが、その症状が2週間以上継続するような場合には、難治性口内炎として注意深く経過観察を行ったり、一部組織を採取する試験切除(生検)を行い病理組織学的検査を施行する必要があります。

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口腔内の出血

口腔癌により口腔粘膜の表面の組織が脆弱になり出血することがあります。患者から口腔内より出血することが続いているという訴えがありましたら、注意して口腔内の出血点を検索しなければなりません。もちろん歯周病などの歯周疾患での出血もありますので、鑑別診断をしっかりと行うことが必要です。出血により口腔癌が発見されることも稀ではありません。

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口腔内の腫瘤や腫脹、肥大した部位が認められる

癌は“できもの”でありますので、口腔内に腫瘤や腫脹、肥大した部位が認められたら注意が必要となります。鑑別疾患には、骨隆起、線維腫、粘液嚢胞等の口腔内によくみられる良性の疾患と区別することが重要です。しっかりと歯科医師による診察を受ける必要があります。口腔癌は表面に潰瘍形成やびらん、さらにその周囲に硬結を伴う隆起がありますが、唾液腺腫瘍の場合には表面粘膜はほぼ正常となっていることもあります。

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舌、歯肉、頬粘膜に赤斑や白斑がみられる

前癌病変の中には紅板症があり、その半分はすでに悪性化しているという報告があります。口腔粘膜が紅のように赤く、硬結が触知出来る場合には注意が必要です。患者は50~60歳代が好発年齢ともいわれています。

前癌病変の中に含まれるもう一つの疾患に白板症があります。この白板症のおよそ6から10%が癌化すると報告されています。特に舌縁、舌下面、口底に発生した白板症で、疣状もしくは腫瘤上の病変や潰瘍、表面が凹凸不正でひび割れ状態等が呈するときは癌化する確立が非常に高く、すでに上皮内癌となっている可能性もあります。このような場合には、早急に口腔外科の専門医への受診を勧めることが大切です。

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噛みづらい、または頬や舌の動かしづらさがある。

癌が顔面神経や舌下神経まで浸潤し蝕んだ場合には、運動障害が生じます。口腔内の筋肉の運動障害の症状がある場合には、その運動神経に対する癌浸潤を考慮して診察する必要があります。

舌や口腔内にしびれや麻痺感がある

癌が舌や口腔内の感覚を司る神経を蝕んだ場合には、しびれや麻痺感などの症状がでます。運動神経の場合と同様に癌の浸潤による神経障害を考慮する必要があります。

頸部のリンパ節の腫脹が3週間以上継続している

口腔癌が頸部のリンパ節に転移すると頸部リンパ節が腫脹します。しかし、首から上の部分での外傷や風邪、う蝕や歯周病、智歯周囲炎等の炎症性疾患でも頸部リンパ節腫脹が生じます。炎症性による頸部のリンパ節腫脹は、炎症症状が消失することで頸部リンパ節の腫脹も軽減・消失します。しかし、これらの症状が認められないにも関わらず頸部のリンパ節が腫脹している場合には、頭頸部癌からの転移や悪性リンパ腫などの疾患が疑われます。

義歯が合わなくなってきたり、違和感が続いている。

歯肉の癌が次第に増大してくると、これまで問題なく使用することができていた義歯が合わなくなってきたり、咬みづらいなどの違和感を訴えてくることがあります。褥瘡性潰瘍やオトガイ孔周囲の骨吸収によるオトガイ神経障害による症状とも近似していますので、注意深い口腔内の診察も重要です。

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一部の歯がぐらついている。

歯肉癌は、限局性の進行した歯周病と臨床的に近似した症状がみられることがあります。一部の歯が最近ぐらつくようになってきたなどの症状があった場合、全顎的にみて一部だけが急激に進行している場合には、悪性腫瘍によるものと考慮して診察する必要があります。

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鼻の片側だけ鼻づまりがある。片側の鼻からだけ膿や血の混じった分泌物が出る。

鼻づまりや膿は、鼻炎や上顎洞炎などでみられる症状です。歯性上顎洞炎と他の耳鼻科的疾患とを鑑別することが重要ですが、上顎洞粘膜由来の癌の存在も注意しなくてはいけません。歯牙の状態や上顎骨の状態から炎症性疾患が否定できるような場合、上顎洞癌の有無についても念頭に入れて診察が必要となります。

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口腔癌になりやすい人

たばこを吸う人

たばこを吸わない人に比べて約7倍も口腔癌になりやすいといわれています。葉巻やパイプたばこも口腔癌の発生の危険率を高めます。

飲酒の習慣がある人

飲酒する人の危険率は飲酒の約6倍といわれています。アルコール濃度の高い、いわゆる「強いお酒」は口腔癌の危険率を増します。とくに口底癌との関係がしてきされています。

たばことお酒を両方たしなむ方はそうでない人に比べ約36倍も危険率が上昇します。

合わない入れ歯や補綴物による刺激が粘膜にある

補綴物による慢性的な機械的刺激がある人

慢性的な補綴物による刺激は口腔癌の危険率を上昇させると指摘されています。特に舌癌では歯の鋭縁や不良補綴物による刺激が原因とも言われています。

口腔清掃状態が不良である人

ブラッシングが十分でない方や義歯の手入れを怠っていると、口腔内が汚れて口内炎が生じ、びらんから潰瘍形成が進み、発癌のリスクが高くなります。

鉄分やビタミン不足の人

鉄欠乏性貧血の方は、口腔粘膜が委縮し、口腔癌のリスクが高くなります。ビタミンA、B、Cなどの欠乏も癌のリスクと関連があるといわれています。

以前がんになったことがある人

口腔癌になった方の10%は食道や胃などの上部消化管に癌が同時に出来ていたり、発生し易いことが知られています。逆にいえば、上部消化管に癌がある方は、口腔内にも癌が生じやすいことでもあります。

 

患者にすすめる自己チェック

患者さんにまず、口腔がんという口の中の粘膜に出来るがんがあることを知ってもらうようにしましょう。そして、早期に発見すれば、他のがんと同じように適切な治療で完全に治すことができる場合が非常に多く、ほとんど支障も残らないことも伝えてください。そして、この口の中に出来るがんは、自宅での定期的な自己検診や歯科医院での診察によって、口腔癌を早期に発見できる可能性が著しく増すことを伝えてください。

 

開業医だから発見できる口腔がん 新谷 悟 クインテッセンス出版 2011
口腔癌取扱い規約 2010年1月版 金原出版 2010
科学的根拠に基づく口腔癌診療ガイドライン 2009年版 金原出版 2009
口腔外科学第3版 医歯薬出版 2010

 

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