口腔癌の症状、病期分類と治療成績

はじめに

がんによりなくなる人数がんが原因となりなくなられた方を部位別に見ると、男性では肺が4.9万人、胃が3.3万人、大腸が2.3万人と続き、女性では大腸が2.0万人、肺が1.9万人、胃が1.7万人という順であった。口腔・咽頭は、男女とも死亡数の多い部位ではないが、男性では4687人、女性では1859人が口腔・咽頭がんで亡くなられている。10万人あたりの死亡数では、図1のように男性では7.6人、女性では2.9人となっている2)。一年間に新たにがんと診断される人数は、男性では39.1万人、女性では28.5万人であり、生涯でがんに罹患する確率は、男性では54%、女性では41%である。 罹患数が多いがんは、男性では胃癌の8.0万人、大腸がんの約6.0万人、肺癌の5.8万人、女性では乳癌の約5.1万人、大腸がんの約4.5万人、胃癌の約3.7万人となっている。一年間に口腔・咽頭癌に罹患する人数は、男性では7417人、女性では3498人であり、10万人に対して男性では11.9人、女性では5.3人となっており、罹患する割合は男性が女性の2倍以上である(図2)。年齢による口腔・咽頭がんの罹患率は、45歳以上から上昇をはじめ70歳以上では10万人あたり男性では40人以上、女性では10人以上となっている(図3)。がん全体に対して口腔・咽頭癌に罹患する割合は、男性では約1.9%、女性では約1.3%と決して高くはない3)。口腔癌は頭頸部癌の一部であり、口腔癌は頭頸部癌の31.8%、口腔・咽頭癌の47.3%を占め、頭頸部癌に占める口腔癌の割合は最も高頻度である。口腔癌の中では、舌癌が全体の59.2%を占め最も多く、歯肉癌が17.5%、口底癌が9.6%、頬粘膜癌が7.1%と続く(表1)4)。一般の歯科診療では歯および歯肉を診察し治療するだけではなく、義歯の作製・調整などにおいて口蓋、舌、口底、頬粘膜、口唇は診察対象となるため、一般歯科医が口腔癌がんを発見する確率は高いと考えられる。(2)新たにがんと診断される人数日本において平成22年になくなられた方は119万7066人おり、死亡原因としては悪性新生物(がん)が35.3万人と全体の29.5%を占め、昭和56年以降は死亡原因の第一位となっている。男女比では、男性が21.1万人、女性が14.2万人と男性の方が女性よりも多かった。がん以外の死亡原因としては、心疾患(心臓病)が18.9万人の15.8%、脳血管疾患(脳卒中)が12.3万人の10.3%という順となっている。1)

病期分類と治療成績

(1)病期分類

口腔癌は、図4で示すように頭頸部癌(口唇および口腔、鼻腔および副鼻腔、上咽頭、中咽頭、下咽頭、喉頭、唾液腺など)に含まれるため、頭頸部癌取り扱い規約(改正第4版)に基づき病期分類を説明する5)。さらに、口腔は歯や顎骨を含み、これに舌・口底・頬粘膜・硬口蓋などを加えた解剖学的複雑性および咬合・咀嚼・構音・嚥下など多くの機能を有するため、これらに対応する口腔癌取り扱い規約(第1版)も出版されている。基本的には、頭頸部がん取り扱い規約に基づき病期分類を説明するが、図5で示すように口腔の亜部位である舌、上顎歯肉、下顎歯肉、頬粘膜、口底、硬口蓋においては進展度の大きいT4に関しては頭頸部癌取り扱い規約とは異なる表記があるため、口腔癌取り扱い規約の内容も追加して説明する6)

 

国際的に癌治療の効果を比較するためには、共通言語としての進展度による分類が有用である。そのため、UICC(Union for International Cancer Control:国際対がん連合)のTNM分類委員会は、原発巣の大きさや進展の状態を表記するT分類、所属リンパ節への転移の有無および進展度を表記するN分類さらには、遠く離れた臓器への転移の有無を表記するM分類によるTNM分類さらにはTNM分類から評価する病期分類を発表し、数年おきに分類法の改正を行っている。UICCのTNM分類委員会による最新の改正は2009年に行われており、UICC TNM 悪性腫瘍の分類 第 7 版が出されているが、日本頭頸部癌学会による最新の頭頸部癌取り扱い規約(改正第4版)は、1997年に改正されたUICC TNM 悪性腫瘍の分類 第 5 版を基に作成されているため、これに基づき説明する7)

まず、TNM分類に関して説明する。TNM分類および病期分類とも、数が大きいほど進展していることを示す。

T分類とは、がんの原発部位の大きさ、進展の状態を示す。がんがひとつの臓器のなかの一部分(亜部位)にとどまっていればT1、ひとつの亜部位を越えていればT2、ひとつの臓器全体にひろがっていればT3、その臓器を越えてまわりに進展していればT4と表記する。しかし、頭頸部癌のなかでも亜部位に分けにくい口腔や中咽頭、唾液腺では腫瘍の大きさで分類する。

N分類とは、所属するリンパ節への転移の進み具合を示す。頭頸部癌の場合、所属リンパ節である頸部リンパ節に関して表記する。

M分類とは、原発部位および頸部リンパ節から離れた臓器への転移の進み具合を示す。

これらの3つを組み合わせて、病気全体の進み具合である病期分類(Stage)を決定する。

 

TNM分類

頭頸部癌取り扱い規約

口唇および口腔癌

TX:原発腫瘍の評価が困難

T0:原発腫瘍を認めない

Tis:上皮内癌

T1:最大径が2 cm以下の腫瘍

T2:最大径が2 cmを超えるが4 cm以下の腫瘍

T3:最大径が4 cmをこえる腫瘍

口唇の場合

T4a:骨髄質、下歯槽神経、口底、皮膚(顎または外鼻)に浸潤する腫瘍

口腔の場合

T4a:骨髄質、舌深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)、上顎洞、顔面の皮膚に浸潤する腫瘍

口唇・口腔

T4b:咀嚼筋間隙、翼状突起、または頭蓋底に浸潤する腫瘍、または内頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍

(注)上皮内癌は、がん細胞が上皮細胞と間質細胞(組織)を境界する膜(基底膜)を破って浸潤していないためリンパ節や多臓器に転移せず、切除すれば治るがんである。

 

口腔癌取り扱い規約

隣接臓器浸潤に相当するT4のうちT4aを亜部位ごとに表記している。T4bは頭頸部癌取り扱い規約と同様である。

T4a:下顎骨骨髄への浸潤、顎下隙への浸潤、外舌筋への浸潤

T4b:咀嚼筋間隙への浸潤、翼状突起への浸潤、頭蓋底への浸潤、内頸動脈を全周性に取り囲む浸潤

 

上顎歯肉

T4a:上顎洞および鼻腔への浸潤、頬隙あるいは皮下脂肪への浸潤

T4b:咀嚼筋間隙への浸潤、翼状突起への浸潤、頭蓋底への浸潤、内頸動脈を全周性に取り囲む浸潤

 

硬口蓋

T4a:上顎洞および鼻腔への浸潤

 T4b:咀嚼筋間隙への浸潤、翼状突起への浸潤、頭蓋底への浸潤、内頸動脈を全周性に取り囲む浸潤

下顎歯肉

T4a:下顎管に達する浸潤、頬隙あるいは皮下脂肪への浸潤、顎下隙への浸潤、外舌筋への浸潤

T4b:咀嚼筋間隙への浸潤、翼状突起への浸潤、頭蓋底への浸潤、内頸動脈を全周性に取り囲む浸潤

頬粘膜

T4a:皮下脂肪への浸潤、上顎骨下顎骨髄質への浸潤、上顎洞への浸潤

T4b:咀嚼筋間隙への浸潤、翼状突起への浸潤、頭蓋底への浸潤、内頸動脈を全周性に取り囲む浸潤

 

口底

T4a:下顎骨髄質への浸潤、顎下隙への浸潤、外舌筋への浸潤

T4b:咀嚼筋間隙への浸潤、翼状突起への浸潤、頭蓋底への浸潤、内頸動脈を全周性に取り囲む浸潤

頸部リンパ節は、オトガイ下リンパ節、顎下リンパ節、上内深頸リンパ節(副神経より前方、副神経より頭側)、中内深頸リンパ節、下内深頸リンパ節、副神経リンパ節、鎖骨上窩リンパ節、前頸部リンパ節に分類されている(図13)。国際的には、頸部郭清の範囲を基本としたASHNSO分類およびさらに細分化したAAO-HNSによるレベル分類が広く用いられている(図14、表2)。

 

N分類

NX:所属リンパ節転移の評価が不可能

N0:所属リンパ節転移なし

N1:同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下

N2:同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmを超えるが6cm以下、または同側への多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下、または両側あるいは反対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下

N2a:同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下

N2b:同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下

N2c:両側あるいは反対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下

N3:最大径が6cmをこえるリンパ節転移

 

M分類

MX:遠隔転移の評価が不可能

M0:遠隔転移なし

M1:遠隔転移あり

病期分類

頭頸部癌では、原発の大きさよりも頸部リンパ節転移の制御により予後が左右されることが多いため、頸部リンパ節の進展に応じて病期が決定されている。

病期分類には簡単な法則が存在する。まず所属リンパ節に転移が無く(つまりN0)、遠隔転移が無い場合(つまりM0)は、Tisなら0期、T1ならI期、T2ならII期、T3ならIII期、T4ならIV期とTに従う。所属リンパ節への転移(N1以上)があれば、無条件にIII期以上になる。特にN2以上があれば、無条件にIV期になり。さらに遠隔転移(つまりM1)がある場合は無条件にIV期となる(表3)。

(2)治療成績

一般的に口腔がんの生存率は悪くない(図15)。腫瘍が小さく、頸部リンパ節転移のない早期がんの予後は良好であり、早期舌がんでの5年生存率は約80%となっている。当然、腫瘍が大きく、頸部リンパ節転移が存在する進行がんではその進行度にともなって生存率が低下する。しかし、1982年に前腕皮弁が報告8)されてからは微小血管吻合による遊離組織移植が導入されたことにより進行口腔癌の治療成績が向上した。つまり、遊離組織移植により大きな組織欠損に対応可能となったため、腫瘍に十分な安全域を設けた手術が可能となり、局所制御率および生存率も向上した。松浦の報告によると本邦における舌癌の5年生存率は、表4で示すようにStageⅠでは約80~90%、StageⅡでは約70%台、StageⅢでは40~60%、StageⅣでは約30~40%である9)。1990年代からは超選択的動注化学療法によるシスプラチンの大量動注化学療法に放射線治療を併用することにより、手術不能口腔癌でも治療が可能となり手術不能なStageⅢ・Ⅳ症例において生存率を37%まで向上させている10)。

3.口腔癌の症状

先ほども述べたように、一般歯科診療において口腔癌を発見することが多い。早期に口腔癌を発見するためにも、初発症状を理解することが大切である。一般には口内炎が数週間以上経過しても治癒しない場合などが、口腔癌を疑う基準として理解されているようであるが、具体的な初発症状としては天笠らにより以下のようにまとめられている11)。

舌癌では疼痛が46.3%と一番多く、発赤・ただれが12.2%、違和感も12.2%、潰瘍が9.8%、白班が8.5%、腫脹・腫瘤が6.1%と続く。

歯肉癌では:無痛性の腫脹・腫瘤35.1%、疼痛が27.0%、発赤・ただれが10.8%、違和感が8.1%、歯の動揺が8.1%と続く。

早期口腔癌では、疼痛が54.9%と一番多く、白班が26.8%、違和感が9.9%と続く(表5)。

上記より、日頃の診察において口腔粘膜の疼痛や発赤・ただれ、潰瘍などに注意し診療を行うことが重要である。

(1)口腔粘膜の異常(白班、びらん、紅斑、潰瘍、硬結、肉芽、乳頭、膨隆など)

口腔内に発生する扁平上皮癌は、顎骨中心性癌以外は口腔粘膜から発生するため口腔粘膜表面に確認できる。歯牙と誤咬しやすい舌側縁や頬粘膜などは機械的刺激により粘膜に損傷が生じ白斑や潰瘍を生じやすい。特に、う触などにより鋭縁の存在する歯牙や補綴歯さらには不適合な義歯なども上記部位に機械的刺激を生じやすいため、粘膜に異常をもたらす可能性がある。そのため、白斑や潰瘍が生じている場合は機械的刺激の原因と考えられる歯牙や補綴歯の研磨さらには義歯の調整などにより改善することもある。上記処置を施行しても症状が改善しない場合は、専門の医療機関へ紹介することが必要である。図16では、舌右側縁に誤咬が生じていたため咬合調整を施行するも、潰瘍が改善しないため生検を施行し扁平上皮癌と診断された。図17では、白斑の周囲に小潰瘍を伴うために、切除生検術を施行したところ潰瘍部が扁平上皮癌であった。舌下腺は、口底粘膜直下に存在するため、舌下腺がんが進展し口底粘膜から口腔内に露出した場合は、義歯による潰瘍を疑う所見を示すこともある。

(2)口蓋の腫脹、上顎義歯の不適合

上顎洞がんなどの副鼻腔・鼻腔がんが増大し、上顎洞外まで進展することにより口蓋粘膜や頬粘膜を腫大させることがある。この場合は、口蓋や頬粘膜の腫脹や上顎義歯の不適合を主訴とすることがある。また、口蓋腺の唾液腺細胞が癌化することにより、腺様嚢胞癌や粘表皮癌さらには唾液腺導管癌などが発生することにより口蓋が腫脹したり、さらに癌が進行することにより口腔粘膜から口腔内に露出すれば、潰瘍や腫瘤を認める。図18は、口蓋の腫脹による義歯不適を主訴に来院された患者の口腔内写真である。左側口蓋の粘膜下に腫瘤を認め、組織診断は唾液線導管癌であった。

(3)歯の自然脱落

上顎および下顎歯肉癌が進行すると歯槽骨を破壊・吸収し、歯が脱落することがある。図18では右側下顎臼歯部歯肉に発生した扁平上皮癌が進行することにより歯槽骨が破壊され右側下顎第二大臼歯、第一大臼歯、第二小臼歯が自然脱落している。この数日後に第一小臼歯も自然脱落している。高度の歯周炎による場合と異なり、脱落した歯が存在していた顎堤に、肉芽様腫瘤や潰瘍が存在する。

 

(4)口腔粘膜下の硬結

唾液腺由来の癌や脂肪肉腫などの肉腫などは口腔粘膜下から発生するため、腫瘍が増大し粘膜表面に露出しないと肉眼的に発見できるとは限らない。図19は舌の粘膜下に存在する腺様嚢胞癌であるが、舌表面に膨隆を認めるが舌表面に潰瘍などは認めないため触診が重要である。口腔粘膜下に腫瘤が存在する場合は良性腫瘍および上記悪性腫瘍が疑われるため、MRIなどの画像診断を施行し、最終的には細胞診や組織診による確定診断が必要となる。

 

(4)片側下唇・オトガイの知覚異常

下顎骨にがんが転移することによりオトガイおよび下唇にしびれや知覚低下が生じることをnumb chin syndromeという。白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、肺がん、乳がんなどにより生じることが多い。口腔粘膜に異常を認めなく、パノラマX線写真でも異常所見を認めなくても、オトガイおよび下唇の知覚異常を生じている場合は悪性腫瘍の可能性を考慮する。

(5)頸部リンパ節の腫脹

口腔内に明らかながんや炎症を疑う所見がない場合であっても、頸部リンパ節に腫脹や硬結を触れる場合は、口腔以外の頭頸部に炎症が存在する場合や伝染性単核球症さらには結核性リンパ節炎などの頸部リンパ節炎を疑う。しかし、画像上リンパ節転移を疑う場合は、上咽頭、中咽頭、下咽頭など頭頸部に原発巣が存在していても検査で見つけられていない場合や見つけられていない肺癌や食道がん、悪性リンパ腫などが頸部リンパ節に転移している可能性も考慮する。

参考文献

  1. 厚生労働省 平成22年 人口動態統計月報年計
  2. 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター、日本の最新がん統計2009
  3. 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター、日本の最新がん統計2005
  4. Report of head and neck cancer registry of Japan, Clinical statistics of registered patients, 2002. Jpn J Head and Neck Cancer 32:2,1-34,2006.
  5. 頭頸部癌取り扱い規約(改正第4版)日本頭頸部癌学会/編、 金原出版株式会社、東京、2005
  6. 口腔癌取り扱い規約(第1版)日本口腔腫瘍学会/編、 金原出版株式会社、東京、2010
  7. UICC TNM 悪性腫瘍の分類日本語版(第5版)訳)UICC日本委員会TNM委員会、1997
  8. Song R, Gao Y, Song Y et al: The forearm flap. Clin Plast Surg 9: 21-26,1982
  9. 松浦一登、林 隆一、海老原 敏、斎川雅久 他:舌扁平上皮癌一次治療症例(274例)の手術治療成績、頭頸部癌30(4)550-557, 2004
  10. Doweck I, Robbins KT et al: Intra-arterial chemoradiation for T3-4 oral cavity cancer: treatment outcomes in comparison to oropharyngeal and hypopharyngeal carcinoma. World J Surg Oncol.6(2),2008
  11. 口腔癌の早期診断アトラス:天笠光男 他、医歯薬出版株式会社、東京、2008

 

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