口腔癌の治療の変遷と最新のトピック 2018年10月

口腔癌はその発生部位が、咀嚼,構音,発声,嚥下など重要な機能に関わるところであり、治療法も変遷を繰り返してきた。とりわけ20世紀末から機能温存治療が世界的に広がるとともに、21世紀に入り分子標的薬や免疫治療薬が矢継ぎ早に登場し、臨床の現場が混乱しつつある。これに対応して口腔癌取り扱い規約、頭頸部癌薬物治療ガイダンスが作成され、多様化する口腔癌診療に一定の指針が示されてきている。かつては、癌の再発を避けるため拡大切除と再建手術が主体であった口腔癌であるが、一部の施設では、非手術的治療としてあるいは術前・術後の補助療法としての化学放射線療法(CRT)が機能温存治療として、推し進められてきた。しかしCRT単独で手術を回避するという療法の限界と長期毒性が解ってきて,その適応には一定の歯止めがかかるとともに、長期毒性の少ない分子標的薬を用いた治療が普及してきている。

 

分子標的薬は再発・転移癌に対しての有効性が認識されるとともに、有害事象(副作用)が少なく癌と共生できる治療法として認識されるようになった。さらに免疫治療薬であるニボルマブが再発・転移頭頸部癌に対して承認され、治療の幅がさらに広がったといえる。このように現在、多様化している口腔がん治療についての現状と今後の展望について記載したい。

 

口腔癌はすべての癌の中でその頻度は少ない癌種ではあるが、その形態機能を考えるとその治療方法の選択は多様性を持つ。実際に、口腔癌の治療は機能温存の観点から様々な変容を遂げており,治療の指針を一定レベルに担保するために、近年ガイドラインが制定されるなどの努力が行われてる。

 

口腔癌治療の歴史

口腔癌の治療は、かつては手術主体であったが,術後の整容的醜形,嚥下障害,音声障害,構音障害などが著明で患者さんのQOLの低下は回避できない面があった。,1980年代からマイクロサージェリーの発展に伴い遊離移植皮弁が発展し、その再建によって機能や形態の問題に関して、かなり改善されたものの、やはり大きな形態や機能の障害が問題として存在した。その後、欧米で画期的な抗がん剤であるシスプラチン(CDDP)が登場し,CDDP併用の化学放射線療法(CRT:chemoradiotherapy)が徐々に浸透し,手術をせずに治せる可能性があることから、機能温存治療として脚光を浴びるようになり,20世紀末には世界中に、この化学療法併用放射線療法が広まった。しかし,長期的に経過をみると局所および全身での再発や、腎障害などの重篤な有害事象が問題となり,さらに、局所進行癌に対するCRTの治療成績も長期的に見た場合に向上を認めず、現状では、その適正使用が検討されている。

その一方で、2012年に初めて分子標的薬としてEGFR阻害薬であるセツキシマブが我が国でも保険承認となり頭頸部癌ならびに口腔癌に対して使われ始めた。本薬剤は従来の抗がん剤に比較して長期的な臓器障害が少ないので,治療後のQOLの向上に期待が高まっている.さらに,2017年に免疫療法である抗PD1抗体(ニボルマブ)が再発転移頭頸部癌(口腔がん)に保健適応となり、口腔がんの治療は、その形態・機能の温存を重要視することから益々複雑化している。今後、の展望としては、米国ですでに次世代治療として模索されている遺伝子治療が口腔がん治療においても期待される。

形態・機能の温存を目指した、化学療法併用放射線療法は、先ほど述べたように全身的な有害事象の面も含め、若干衰退する。その後、米国とヨーロッパで同時に行われたTAXstudyがそれであり,従来のPFCDDP5FU)に対してDTX(ドセタキセル)を追加した3剤によるTPF療法が行われ,TPFのほうがPFより有意に生存率を向上したとの報告がなされた。これによって口腔癌を含む頭頸部進行癌に対する導入化学療法はTPFが世界標準となってきている。日本においてもTPFが各施設で行われるようになっているが、強力な殺細胞性抗癌剤の組み合わせにより重篤な有害事象(副作用)の報告もなされており,実際の実施に注意が必要である。実際に、TAXstudyにおいても治療関連死が数%出ている。

最も注意を要するのが発熱性好中球減少症であり,対策が一歩遅れると一気に重症感染症から敗血症,ARDSを併発し予後不良となる事がある.

Posner MR, Hershock DM, Blajman CR, et al.:TAX324 Study Group. Cisplatin and fluorouracilal on or with docetaxel in head and neck cancer. N Engl J Med 2007;357:1705-1715.

Vermorken JB, Remenar E, vanHerpen C, et al;EORTC 24971/TAX 323StudyGroup.Cisplatin, fluorouracil, and docetaxel in unresectable head and neck cancer. NEnglJMed2007;357:1695-1704.

 

強力な殺細胞性抗癌剤による化学療法には一定の限界がきており,分子標的薬が今後も開発されていき、レジメンの見直しの可能性も考えられる。実際に,殺細胞性抗癌剤の代わりに分子標的薬であるセツキシマブを組み込んだ導入化学療法が考案され,第二相試験ではあるが高い奏効率と副作用の軽減が示されている。

Kies MS, Holsinger FC, Lee JJet al: Induction chemotherapy and cetuximab forlocally advanced squamous cell caricinoma of the head and neck: results from a phase II prospective trial. J Clin Oncol 2010;28:8-14.

 

導入化学療法の意義は1.腫瘍縮小によるCRT効果の増強, 2.遠隔転移の抑制効果, 3.腫瘍縮小による縮小手術の可能性が指摘されている。口腔がん治療において最も重要な形態・機能の温存を鑑みると、腫瘍縮小による縮小手術の可能性がある。口腔癌は病期に関わらず手術が主体であるため, 手術範囲の縮小による機能温存にかかってくる。進行口腔癌の手術は拡大切除が主体であり,舌亜全摘,舌全摘,下顎骨区域切除,上顎亜全摘,全摘など侵襲が大きく,かつ遊離皮弁移植による再建が必要であるものの術後の機能損失は大

きい。これを改善するための方策として導入化学療法後の縮小手術の可能性が考えられる。

●平野滋.頭頸部癌に対する導入化学療法の再考:縮小手術の可能性.耳鼻臨床2016;109;8:521-531.

 

分子標的薬,免疫療法の登場

近年、この5年ほどで口腔癌を含む頭頸部癌領域では分子標的薬と免疫療法が続々と登場し,セツキシマブが2012年で20173月に承認されたばかりのニボルマブは免疫療法薬である。

1.セツキシマブ

上皮成長因子受容体(EGFR)の阻害薬で2012年に日本において頭頸部癌一般に適応となった。注目すべきは口腔癌の殆どが扁平上皮癌であり、EGFRの過剰発現を示すため一部の腺癌も含め組織型に関係なく使用できる点である。口腔癌であればある意味、無条件に使用可能となる。

2.ニボルマブ

PD1抗体であるニボルマブが20173月に再発・転移頭頸部癌に対して承認された。口腔癌を含む頭頸部癌においては初の免疫治療薬となる、エビデンスとなった国際共同治験(Checkmate-14116))では、プラチナ抵抗性の再発・転移頭頸部癌に対し対照アームである抗癌剤やセツキシマブより有意なOS(生存率)の延長を認めた。ニボルマブはその2ndlineの位置づけであるが、予後不良頭頸部癌患者のさらなる予後向上が期待されている。一方で、これまで経験しなかったような有害事象(間質性肺炎,大腸炎,肝炎,劇症型Ⅰ型糖尿病,重症筋無力症,甲状腺機能異常,脳炎など)が確認されている。

 

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