口臭に対する治療

はじめに

口臭は、多くの患者さんが経験する身近な疾患であるにもかかわらず、大学学部教育での取り扱いも十分とはず、口臭およびその治療について正しい知識を有する歯科医師は極めて少ないと思われる。

一方、患者さんの口に対する美意識や歯科治療における審美的要求は飛躍的に高まっており、白い歯やきれいな歯並びと同様に、人に不快感を与えることのないきれいな息、すなわち、口臭の改善を求める患者さんは多く、その潜在的なニーズは増加傾向にあると思われるが、歯科医院での対応が十分とは言えず、乖離があるのが現状と思われる。

口臭治療は単なる経験学ではなく、基礎医学から医学・歯科臨床各科を含む幅広い科学であるともいえる。実際の口臭にたいする臨床では、EBMに基づいた診断や説明だけで改善がみられる場合も多いことから、できるだけ、客観的に診断を行い、必要と考える場合には、専門医での診断・治療を勧める。この記事が、口臭に対する臨床の一助となれば幸いである。

I.口臭症の分類

1.真性口臭症(Genuine Halitosis)

実際に口臭を有する症例を真性口臭症と診断し、口臭のない仮性口臭症や口臭恐怖症と明確に区別することが重要である。その基準としては、社会的容認限度を超える明らかな口臭が認められるものと定義されるが、その限度は患者と周囲の環境とのかかわりでも決まるものである(官能検査判定基準)。

真性口臭症は口臭の治療必要性(治療必要性)に基づいて、さらに生理的口臭と病的口臭に分類される。病的口臭は歯科学的・医学的治療の必要な疾患が存在する口臭症であり、生理的口臭は治療すべき原疾患がなく、歯ならびに口腔清掃指導等のみ必要とする口臭症と言える。

 

1)生理的口臭(Physiologic Halitosis)

う蝕の歯や智歯周囲炎を含む、口臭の原因となる器質的変化や原因となる疾患がないもの(ニンニク摂取など一過性のものは除く)と定義される。口腔内の腐敗作用により産生され、生理的に舌苔が付着しやすい舌背後方に由来する口臭である。生理的口臭の約6割が舌背より産生される(舌苔の観察ポイント)。

2)病的口臭(Pathologic Halitosis)

病的口臭は、治療あるいは改善すべき原因疾患や器質的変化がある口臭で、口腔由来の病的口臭と全身由来の病的口臭に分類される。

a.口腔由来の病的口臭(Oral Pathologic Halitosis)

口腔内の原疾患(嚢胞、根尖性歯周炎からの瘻孔、その他の歯牙破折、智歯周囲炎などの原因における排膿など)、器質的変化、機能低下などによる口臭(舌苔、プラークなどを含む)と定義され、歯科口腔外科疾患および歯周病による口臭がこれに含まれる。

b.全身由来の病的口臭(Extraoral Pathologic Halitosis)

扁桃腺炎や副鼻腔炎などの耳鼻咽喉科に関係する疾患や喀痰などに関する呼吸器系、便秘や胃炎などの消化器系疾患、その他全身疾患などによる口臭で、比較的容易に診断できる場合もあるが、系統的疾患が原因の場合など診断が難しいことも多い。

 

2.仮性口臭症(Pseudo-Halitosis)

患者が口臭を訴えるが、社会的容認限度を超える口臭は認められず、検査結果などの説明により、訴えの改善が期待できるものを仮性口臭症と診断する。従来、心身症としての口臭症は、自臭症、自己臭症、自己臭恐怖、口臭ノイローゼなど多くの診断名でよばれてきたが、これらの患者の中には、科学的根拠に基づいた説明だけで治癒する例も少なくないことから、一般医でも容易に対処できる心身症を仮性口臭症として分類している。この分類に意味としては、一般歯科医の心身症治療範囲、すなはち客観的な評価を患者さんに伝えることで患者さんが気にしすぎていたことを自覚し、治癒する範囲を明確にし、口腔心身症などの難治性心身症患者を一般歯科医が長期間抱えることがないようにする意味がある。

 

3.口臭恐怖症(Halitophobia)

真正口臭症および仮性口臭症に対する治療では、訴えの改善が期待できないものを口臭恐怖症と分類され、専門医の対診を必要とする症例である。口臭恐怖症は、日本で従来言われてきた「自臭症」に近い概念で、自臭症の中でも重症例に相当する。しかし、自臭症の診断名は国際的には知られておらず、また、周知されている自臭症の定義では、口臭を有しながら心身症病態のある症例や、軽症の心身症である仮性口臭症等との区別が難しい。口臭恐怖症は、社会恐怖症(Socialphobia)や醜形恐怖であろうとの見方が大勢であり、多種のパターンの中でも多くの症例が以下の2つである。

      1. 社会恐怖症を基礎にもち、患者の対社会的な問題の原因が口臭と妄想し、場合によっては、その口臭の再現を異常に恐れる症例。
      2. 口臭があると妄想することで惹起された社会恐怖症あるいは醜形恐怖症、すなわち、口臭が対人関係を阻害することを過剰に心配して口臭恐怖症になった症例。

参考文献

  1. 宮崎秀夫他:口腔症分類の試みとその治療必要性. 新潟歯誌, 29:11-15, 1999.
  2. 阿保喜七郎:健態者の舌所見、特に絶対に就いての観察. 歯科学報, 48:125-133, 1943.

 

II.臨床に必要な口臭の科学

口臭に対する臨床において、治療そのものは単純であるが、診断は繊細に行わなければならず、たとえ治療に成功しても患者の満足が得られないこともあるという極めて特殊な臨床であり、できるだけ科学的な根拠をもって治療にあたることが必要と考える。

口臭を訴える患者さんは、その特徴として口臭についての誤った知識や疑問をもつ場合も少なくない。そのために臨床医は、科学的根拠に基づいて診断しできるだけ客観的な説明を確実に行わなければならない。

口臭の原因物質である揮発性硫黄化合物 Volatile Sulpher Compoundsがどのように発生するのかということについては、スライドのごとくであるが、最終的には舌苔の沈着に集約あされるkとがわかる。舌苔は、健常者の7割程度。幼年者、高年者に少なく中年に多く発現し。歯周病、齲蝕、清掃不良、喫煙者で多いことが知られており、脱落上皮細胞(100%)、連鎖状球菌(80%)、ブドウ状球菌(87%)、食片残渣(80%)、白血球(27%)が見られる。

一方で、生理的口臭産生の環境としては、主に舌背後方2/3の部分から発生し、中性からアルカリ性(酸性下では口臭産生せず)、口臭産生の気質は、舌苔中の脱落上皮細胞、血球とされている。

 

1.生理的口臭の産生

生理的口臭は、舌背後方部における細菌の腐敗作用が主な原因である。その他の口腔粘膜上でも腐敗作用は常時進行し、VSC(揮発性の硫黄化合物)を産生するため、口腔内細菌数の変化に準じた日周変動がある。すなわち起床時が最も口臭が強く、口腔清掃や食事摂取により口臭は減少する。

口臭の原因として、歯肉縁上プラークを口臭の直接原因とする臨床医も多いが、その可能性は低く、プラークからのVSC産生は微量であるため、大量のプラーク沈着がない限り口臭の直接原因とはならない。しかし、臨床的にプラークの沈着は、多くの場合m、重度の歯周病変を伴い、口臭は増加することから、プラークは口臭の間接原因と言える。

口腔内細菌は、主に舌苔中の脱落上皮細胞や白血球を分解しVSCを産生する。舌を含む口腔粘膜からの脱落上皮細胞は、まず唾液に暴露されるため唾液中でも分解が起きると考えられるが、唾液の嚥下運動や睡眠時の体位変化、破壊による細胞の高比重化のため、舌背後方中央部を中心に舌苔として堆積する。また、セリンプロテアーゼ分解性のタンパクにより細胞間付着が生じ、舌苔形成の要因となるとされる。この細胞1個あたり約100個の細菌が付着しているといわれ、頬粘膜細胞の約25個と比べて4倍も多いことから舌苔中の最近の活動は活発と考えられ、このことが口臭の原因物質である揮発性硫黄化合物 Volatile Sulpher Compoundsの発生につながる。

 

2.病的口臭:歯周病口臭

歯周病に起因する口臭の産生経路も原則は生理的口臭に一致する。しかし、今まで科学的裏付けもなく歯周病の口臭は歯周ポケットから産生されると信じられてきた。急性期歯周病はその可能性もあるが、慢性期歯周病の独特な口臭は、生理的口臭と同じく舌背がその産生の中心で、全VSCの6割が舌から産生されている。すなわち、歯周病のために口腔内全体あるいは舌背の環境変化が起きたと考えられる。

3.全身疾患による病的口臭

糖尿病ではインシュリン分泌低下のため、細胞内にブドウ糖を送り込むことができない。そのため、細胞外ではブドウ糖が停滞し高血糖となる。一方、細胞内ではブドウ糖不足のために脂肪がβ酸化され、エネルギー源となる。この際、ケトン体が産生され、尿中や呼気中に排泄される。揮発性硫黄化合物VSCは、腸管内でも産生されるが、肝機能障害では腸管から吸収されたVSCの解毒能が低下し、肺を介して呼気中に排泄される。同様に腎疾患でもアミン類の呼気中排泄が認められることがしられている。

口腔由来の口臭症では、通常、硫化水素が出現する。したがって、硫化水素が少なく、ジメチルサルファイドが検出されると、血流・肺を介しての腸管由来口臭を疑う。腸粘膜では硫化水素やメチルメルカプタンは代謝され、ジメチルサルファイドが残存するとされている。ただし、ごく稀に舌苔からジメチルサルファイド主体の口臭で検出されることもあり、除外診断が必要となる。

 

4.排卵周期と口臭

生理周期と口臭の関係を検討すると、必ずしもすべての女性で明らかな整理の影響があるわけではない。しかし、傾向としては排卵日前後を含む2日間および月経の一時期に揮発性硫黄化合物VSCの増加がみられる。口臭周期の原因は不明であるが、女性ホルモンがしない細胞のライゾームを脆弱化させ、酸性加水分解酵素が逸脱し炎症性変化が起きるため、VSCが産生されると想像されるほか、メチオニンを多く含む歯肉溝滲出液の増加などの理由が考えられる。

 

参考文献

・Kleinberg I, Codipilly M:The biological basis of oral malodor formation, In:Rosenberg M(ed). Bad Breath:Research Perspectives, ed 1. Ramot, Tel Tviv. Israel 13-39, 1995.

・Tonzetich J, Eigen E, King WJ, Weiss S:Volatility as a factor in the inability of certain amines and indole to increase the order of saliva. Arch Oral Biol, 12:1167-1175, 1967.

 

 

Ⅲ 口臭の官能検査法

官能検査は、術者の嗅覚による口臭検査法であり、客観性がないように見えるが、官能検査はもっとも信頼できる口臭検査法で、国際口臭学会では「サルファイドモニターあるいはガスクロマトグラフィーで検査したとしても、官能検査で口臭を診断すべき」と勧告している。

 

1.UBC(University of British Colombia)式官能検査

数種類の官能検査方法があるが、一般に行われているのは単に臭いをかぐ方法である。しかし、いずれの方法も気道内空気や大気にて希釈される。口臭は呼気が大気中で臭うことから、大気で希釈されても良いとも考えられる。しかし、患者にとっては、自分の口や鼻から出てくる息に悪臭があるかどうかが問題であり、より厳密な検査を患者は求める。反対に医師の側も、厳密な診査をすれば患者への説得力が増すため、原臭を検知するUBC式官能装置が開発された。

 

2.UBC式官能検査装置の仕組み

患者と検査者をさえぎる板状のスクリーン(縦80~100cm、横50~60cm)を用意する。このスクリーンをデンタルチェアのライト・アームなどに掛けるため、上端にフックを取り付け、スクリーン中央からやや上方の口の位置に息を吹き込むためのチューブを挿入固定するための穴を空ける。チューブは長さ10cm、直径2.0~2.5cmの透明でオートクレーブ耐熱性の材質か使い捨てのものとする。チューブの一端より患者が口腔内空気を吹き込み、他端から検査者が花をチューブに接するまで近づけて官能検査を実施する。

 

3.官能検査のための設定条件

官能検査を行う際に、起床時の最も強い口臭を診査時まで持続させ、検査の妨げとなる臭いを除外するよう条件を設定した。検査者は、耳鼻咽喉科医らによる嗅覚検査に合格した者が好ましい。また、検査者自身も診査前にT&Tオルファクトメーター(嗅覚検査基準臭)を1つ以上使ってチェックするのが望ましい。北米の嗅覚検査法にある多数の基準臭から2~3種類を任意に選び、設定された臭いの種類を感じるかどうかでチェックすることも可能である。この場合の基準臭は、入手することが難しいため、食品用エッセンスやカラメルシロップでも代用できる。茹でたばかりの卵や海苔などの食品は、硫黄臭の標準にもなる。

 

4.UBC式官能検査の実施方法

UBC式官能検査では、患者に測定前の1分間口を閉じて鼻呼吸した後、チューブの一端を咥え、ゆっくり呼気を吐き出す(約10秒程度で呼気をだし切る)よう指示する。診断の迷いを避けるために、まず吹き始め2秒ほどで判定した後、いったん鼻をチューブから遠ざけ、数秒後に肺・気道内空気の診断を行う。通常、口腔・扁桃由来の口症では、肺・気道内からの呼気の臭いがわずかに減少している。鼻腔については、直径1cm程度で長さ10cmのチューブを鼻腔にあて、口腔内空気の診断法に従って最初の2~3秒で鼻由来の悪臭を確認し、最後に肺胞内空気を診断する。

 

5.官能検査値の臨床的解釈

臨床的に最も重要な診断は、官能検査診断基準のスコア1と2の閾値判断であり、真正口臭症か否かの鑑別になる。ところが、スコア3以上の臭い強度判断は、術者の過去の臭い学習が大きく作用し、主観に左右されやすい。しかし、臭い強度診断は口臭症診断には影響せず、臨床上問題とならないので、官能検査のみで口臭診断は十分と言える。

口臭診断の基準である嗅覚閾値は個人により異なるため、検査者は2名以上が望ましい。頻繁に両者の判定スコアの差が2以上になるときは、一方の検査者の嗅覚が鋭敏過ぎるか、あるいは鈍いことがあるので嗅覚の再診査が必要となる。

最終判定では、検査者の平均値をとる。患者を口臭ありとする境界は、用いた官能検査法で異なる。最も鋭敏なUBC方式では、認知閾値・スコア2までは社会的容認限度と考えている。しかし、口臭の指摘が配偶者や恋人からなされた場合は、家族内許容範囲をスコア1とする。

一方、患者にもこの診断基準スコアを教え、口臭判定をさせて検査値との差を検討する。多くの患者は自分なりに自己判断するが、できない場合は患者自身の呼気を自分で確認する自己診査を行わせる。もちろん、後鼻腔嗅覚による臭い順応があるため、自らの口臭は臭わないことが多いと思われる。この自己診断の目的は、患者が心理的に自分の口臭をどう評価しているのかを知るところにある。口臭患者は一般に自己診断では過大評価する傾向があり、心身医学的要素のある症例ではさらに顕著である。すなわち、スコアの差が2以上の場合は、患者は口臭を過剰に心配する心身症のことが多い。ときに自分では判断できないという患者がいるが、この場合心身医学的には正常か、または、逆に医師や他人に対してきわめて警戒心の強いタイプの心身症であることがある。

 

【口臭の官能検査の種類】

1:息を吐き、それを10~20cmの距離から嗅ぐ方法

2:マスクとチューブを使った方法

3:3点比較式臭袋法で用いる臭い袋やテフロンバッグの応用

4:オルファクトメーターを使った方法

5:UBC式口臭官能検査

 

【官能検査の検査条件】

(検査当日)

・飲食の禁止

・口腔内清掃の禁止

・禁煙(12時間前より)

・洗口の禁止

・口中清涼剤の禁止

(前日以前)

・香料入り化粧品使用の禁止(24時間前より)

・ニンニクなど揮発成分含有食品の摂取禁止(48時間前より)

・抗生剤などの投与禁止(3週間前より)

 

【官能検査判定基準】

(スコア)   (判断基準)

0:臭いなし  嗅覚閾値以上の臭いを感知しない

1:非常に軽度 嗅覚閾値以上の臭いを感知するが、悪臭と認識できない

2:軽度    かろうじて悪臭と認識できる

3:中等度   悪臭と容易に判定できる

4:強度    我慢できる強い悪臭

5:非常に強い 我慢できない強烈な悪臭

 

参考文献

八重垣健. Coil JM:官能検査・質問票による口臭の診断. ザ・クインテッセンス, 18:745-753, 1999.

 

Ⅳ 口臭症診断プロトコル

1.口腔内診査

1)顎運動の異常

口臭がある患者さんにおける顎関節症は比較的頻度が高く、患者のストレスが原因の口臭の場合に、心身症としての顎関節症も存在する。そのため、顎関節症を疑わせる顎運動の異常は、必ずスクリーニングしなければならない。患者が顎関節症を苦痛としている場合は顎関節治療を優先する。

 

2)粘膜所見

発赤・腫脹・びらん・潰瘍などの症状は要注意項目である。これらの症状が口腔内にみられるときは、その治療を優先する。ただし、慢性再発性アフタの場合は病変発生時と治癒後に口臭検査を行い、口臭の原因か否か確認する。粘膜所見で問題となるのが舌運動障害である。舌運動が悪いと舌苔や食渣が口腔内にたまり、口臭の原因となる。舌苔が多い場合などは、必ず前突などの舌運動を確認しなければならない。舌運動障害が確認されたら、症例によっては耳鼻咽喉科、脳神経外科等へ紹介するのが望ましい。口腔乾燥が疑われる場合には唾液の流出状態の確認と唾液腺の触診は行った方が良い。その結果、腫脹などが認められる場合は、この診断・治療を優先する。

 

3)歯周病の診査

歯周診断には多くの基準が存在する。しかし、口臭臨床における歯周病診査は、以下を目的として行う。

  1. 4mm以上のポケットは存在するか
  2. 排膿があるか
  3. 容易に歯肉から出血するか(歯肉出血指数)

などである。歯周病治療が一つの目標ではないため、歯肉の状態が口臭の原因か否かの判断が優先する。その他に、ポケット滲出液はVSCの気質を多く含むので、歯間ブラシやデンタルフロスを用いて擦過嗅診するとよい。

 

4)口腔衛生状態の診断

数多くの診査法があるが、患者指導に応用しやすいプラーク・コントロール・レコード(PCR)が推奨される。もちろんプラーク・インデックスでも構わない。

 

5)歯牙の診査

歯牙状態は一般的診査で十分である。しかし、う蝕の歯や修復物内部の2次う蝕などの腐敗が口臭原因となりうるため、患者自身による部位を特定した訴えが参考になる。

 

6)舌苔量の診査

舌苔量を視診で診査する臨床医が多いが、指針による診査は、必ずしも真の舌苔量に一致しない。なぜなら付着の多い分界溝付近の舌苔は診断が難しいためである。また、視診で薄い舌苔であるという診断がじつは糸状乳頭の角化のこともある。そこでUBCでは、小さい薬匙を使って舌苔を採取している。

 

7)唾液分泌量の診査

唾液分泌量測定は、安静時唾液か刺激唾液かの違いがあり、後者はさらに咀嚼刺激か味覚刺激かで異なる。測定する唾液も、全唾液か純唾液かの選択をしなければならない。しかし、口臭発生環境下では、刺激唾液ではなく安静時に近いと考えられる。例えば起床時や空腹時口臭では刺激が少ない状態が続いて口臭が発生する。また、唾液による自浄作用が口臭減少に関わると考えれば、全唾液分泌量を必ず測定せねばならない。

これに加え、粘膜や耳下腺乳頭の萎縮または舌乳頭の消失、あるいは、唾液減少による嚥下困難があれば口腔乾燥症と診断している。

 

 

Ⅴ 真性口臭症の治療

1.生理的口臭の治療

生理的口臭症の治療は、治療必要性(TN)1により行う(治療必要性)。TN1は、すべての口臭症の治療に含まれ、その中心的な治療となる。この治療の基本は、舌清掃を含めた歯口清掃で、これ以外の方法は補助的治療になる。また、TN1の指導では、4~6か月毎のリコール受診の励行を目標としたい。

 

1)舌清掃法

舌背は、デンタルプラークと同じく細菌の増殖の場である。しかしながら、我が国では北米に比べて未だに舌清掃を勧める歯科医師・歯科衛生士は少ない。舌清掃は口腔内清潔維持のために必須であり、新たな歯口清掃法の1つとして口腔保健指導や公衆歯科衛生活動に取り入れるべきと思われる。舌清掃によりVSCは顕著に減少する。また、生物学的方法で実験的に舌苔沈着をなくすと、早朝の口臭は明らかに減少する。実験的に就寝前、舌背後方に乾燥ビール酵母を50~100mg応用し、起床時の舌苔生成量を定量すると、90%以上の減少を示すことが明らかになっている。この実験結果からも、生理的口臭の治療の主体は舌清掃にすべきと結論できる。

 

a.器具

歯ブラシによる舌ブラッシングと舌ベラについて、それぞれ嘔吐反射や味覚改善、口臭改善について評価したところ、いずれも歯ブラシによるブラッシングの評価が高かった。また、硫化水素の気質となるシステインを口腔内に添加して、口臭産生変化を観察する実験で口臭予防効果を調べたところ、舌ブラッシングの方がはるかに効果があった。

舌苔付着部位ばかりでなく、舌背全体をブラッシングした場合に口臭予防効果が高いことから、舌苔除去のみならず、舌乳頭間隙ブラシによる清掃が大きく口臭を減少させると思われる。

一方、舌清掃では、清掃器具による機械的刺激には十分注意しなければならない。歯肉より脆弱な舌粘膜は機械的刺激を受けやすく、舌への機械的刺激は発癌機序を促進する。

そこで、UBC口臭科では、ワイヤー植毛タイプ(タングメイト、フレッシュメイト:デントケア社)の舌ブラシを推奨している。この製品は他の舌ブラシと異なり、極細の歯間ブラシ用ナイロン毛を使用しており、機械的刺激が少ない。また、ナイロン毛の長さが歯ブラシよりも短いために適度な強度がある。さらに、捻りブラシのため粘膜に対して常に直角となり、舌乳頭間に入りやすい。患者がこのような舌ブラシを入手できないときには、次善の策として乳幼児用の歯ブラシの使用を推奨している。

 

b.舌清掃法の指導

まず、舌のどこを清掃するのか指導する。可能な限り舌の後方を清掃するよう指導することが多いが、患者によっては舌扁桃を強く清掃して同部から出血させる危険があるため、注意が必要である。

  1. 舌後方2/3、特に分界溝直前に舌苔が溜まりやすいことを説明する
  2. 分界溝の位置と舌扁桃の位置を教え、決して舌扁桃を清掃させない。この付近には有郭乳頭もあり、乱暴な力は禁忌である。舌分界溝の位置の指導は、舌を可能な限り前突させ、この時舌がつくる山状の頂点付近が分界溝であると説明する。患者に鏡で舌の頂上を見せながらブラッシングするよう指導する。
  3. 乱暴な力が加わらないようブラシは指で持ち、手掌で把持しない。舌清掃具は前後方向に動かす。数秒ブラッシングしたら流水で洗い、ブラシに舌苔がつかなくなるまで繰り返す。ただし、神経質な患者の中には、ごくわずかに毛先に付着するのが気になったり、糸状乳頭の白く見える角化層を舌苔と考え、過度に擦過する者もいるため、注意が必要である。

2)義歯口臭への対応

義歯を装着した高齢者の口臭を分析すると、やはりVSCが検出される。一方、義歯洗浄液から臭い物質を抽出すると、カプロン酸など13種の有機酸やアンモニア、ピリジン、アセトンが検出され、有機酸の含有量は唾液のほぼ4倍となる。したがって、義歯を口腔外に取り出せば必ず臭うということもできるが、口腔内に装着した状態で口臭の原因となっているかといえば、呼気あるいは口腔内空気からこれらの物質は検出されにくく、義歯装着患者の口臭の主体が有機酸とは断定できない。おそらく、これらの化合物はVSC口臭を義歯独特の臭いに変化させる修飾因子であると考えられる。

したがって、義歯口臭も他の口臭と同じくVSC減少を目標としなければならない。具体的には、義歯洗浄や義歯清掃以外に舌清掃を含む歯口清掃の徹底が必要である。しかし高齢者では、舌清掃の際に口腔内へ落下した舌苔が誤嚥され、呼吸器感染症を起こす可能性がある。したがって、一旦採取した舌苔を落下させない器具(スプーンタイプの舌清掃具:例えばブラシ植毛ではフレッシュメイト・デントケア)が推奨される

 

2.口腔由来の病的口臭の治療

この治療は、前述した生理的口臭に対するTN1に加え、TN2、すなわち、専門的清掃(PMTC)や疾患治療(歯周治療など)が必要となる。多くの場合、スケーリングに始まる歯周治療が必要であり、歯周診断に従って治療を行う。

 

歯周病がある程度残存すると口臭も残存する。したがって、口臭患者の歯周病治療では4mm以上の歯周ポケットをなくすことが必要となる。しかし、症例によってはポケットを焼失させることは容易ではない。臨床的困難もあるうえ、それに伴う患者の大きな負担もある。したがって、歯周病口臭患者治療のゴールは、患者の口臭に対するとらわれの程度と治療に対する患者の理解と協力により決定されるものと考える。

齲蝕が原因の場合、鋳造冠内部の腐敗や食渣が溜まるような大きな齲蝕が口臭原因となる。しかし、この場合は齲蝕患者の症状としての口臭であり、口臭を主訴として受診する患者には少ない。齲蝕原因の場合は、診断さえ確実であれば病的口臭は即座に消失する。

口腔乾燥症は口臭原因の1つである。はじめに口腔乾燥を起こすような薬剤の投与が行われているか否かについて確認が必要である。もし口腔乾燥が薬剤の副作用であれば全身由来の病的口臭となる。しかし、まずはTN1あるいはTN2を行って経過を見ることが必要である。もし治癒しなければ、以下の主治医と患者に投薬続行か試験中止かの決定をゆだねるのが良い。シェーグレン症候群を疑った場合は、一般歯科臨床医はこの疾患を全身疾患と考え、専門医紹介が必要となる。

また、加齢や通常の口腔乾燥症に対するUBC口臭科の基本指導では、まず洗口や飲料水摂取、歯口清掃の徹底、可能ならばチューインガム咀嚼などを勧める。そのうえで医科を対診し、人工唾液の使用などを考慮する。

 

3.全身由来の病的口臭の治療

この治療は、前述した生理的口臭に対するTN1に加え、TN3「医科への紹介」が必要となる。この場合の紹介先は、耳鼻科疾患・口腔外科疾患でない限り、通常は患者かかりつけの内科医、なかでも消化器内科、呼吸器内科を第一の紹介先として選択するとよい。紹介する際には、例えば「口臭主訴の患者ですが、歯科・口腔外科領域に口臭の原因は見られません。呼吸器あるいは肝臓を含めた消化器が口臭の原因である可能性も否定できませんので、ご高診・ご加療をお願いします。」などと歯科医学的に原因がなく、内科的原因が疑える旨をはっきりと紹介状に記載する必要がある。さもないと、臨床医の意図とは異なる診査・治療が行われてしまうこともありうる。

内科などでからの投薬が口臭の原因として疑われる場合、その内服薬は大きく2種類に分けられる。味覚・嗅覚に異常きたす薬剤と唾液分泌低下をきたす薬剤である。前者の場合は、問診からだけでも診断あるいは他科紹介が十分可能である。しかし、後者については、唾液分泌検査が必須となる。唾液分泌が減少している場合でも、まずTN1を試み、場合によってはTN2も必要かもしれない。これらの加療を行っても口臭が改善しない場合のみ、投薬中止の可能性を考える。しかし、多くの場合医科的に投薬続行すべき場合が多いので、内科など主治医と患者の判断に任せるべきである。

 

Ⅵ.口臭患者への心理的配慮

「口臭は人間関係など患者さんと周囲とのコミュニケーションの障害となり、それを患者は悩み、治療を求めて来院している」という事実を歯科医師は常に認識していなければならない。口臭を主訴として患者が歯科医院を受診するのは、口臭により周囲の人々に不快感を与え、他人から忌避されることを恐れるからである。集団で社会生活を営んでいる人間だからこそ、口臭の存在が深刻な悩み、苦しみとなっているのである。したがって、どのような口臭患者に対しても心理的配慮は必要である。

 

1.診療前後の患者の変化

患者が診察室に入る前と治療が終了して診察室を出る時とを比較して、口臭に関する症状や悩みが少しでも改善され、患者が明るい気持ちで帰宅できることが基本である。そのためには、患者の口臭が検出できる場合には、真性口臭症に対する治療法をきちんと提供していくことが必要である。また、口臭の有無にかかわらず口臭の悩みを訴える患者には、毎回口腔清掃指導やPMTCなどの治療を行い、患者に口腔内の爽快感を経験してもらうことも大切である。

2.患者面接時の注意点

いちばん大切なことは、口臭の有無にかかわらず、まず患者の話をよく聞くことである。官能検査や機器による検査によって、患者が訴えるような社会的容認限度を超える口臭は認められなくても、はじめから患者の訴えを全面的に否定してはいけない。

 

3.保健指導の中での歯科医師・歯科衛生士の役割

カウンセリングは、歯磨き指導、舌清掃などを実地指導する際に一緒に導入していくことが自然である。もちろん、歯科医師だけでなく歯科衛生士が対応しても良い。診療室にカウンセリングルームなどがある場合はその中で行うのが望ましいが、デンタルチェアでも可能である。患者は口臭の話をするとかなり長く話をしてくるが、診療時間は全体で30分から1時間程度でくぎるべきである。

 

 

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