【Q】
前歯部インプラント治療において、抜歯後いつインプラントを埋入することができますか?
上顎前歯部の唇側の骨は一般的に1mm以下と非常に薄く、抜歯後、唇側の骨はかなり垂直な骨吸収が起き、歯槽頂側の骨幅が狭くなります。
このような状態になった場合、ほとんどの症例で骨補填材を使って骨を作らなければなりません。この歯槽骨の吸収は抜歯後の時間経過とともにその量が増加するので、骨の吸収と新しく体が作る骨のバランスを見ながら、慎重にインプラントの埋める時期を決めなければならないことになります。
インプラントの埋入タイミングについて
ITI(International Team for Implantology)ではインプラントの埋入タイミングを4つのタイプに分けています。
【タイプ1】抜歯と同時にインプラントを埋入「即時埋入」
【タイプ2】歯茎が治ったタイミングでインプラントを埋入(4〜8週)
【タイプ3】抜歯後すっぽり空いた抜歯窩がある程度骨ができる上がるタイミングでインプラントを埋入(12〜16週)
【タイプ4】完全に骨が治ってからインプラントを埋入(6ヶ月〜)
抜歯後の硬軟組織量の変化について
前歯抜歯後に時間の経過とともに骨の唇側の形態は吸収により減少していき、相反するように抜歯窩内は少しずつ新生骨組織により充填されていきます。
中田 光太郎, 増田 英人. 審美領域インプラントの埋入時期の考察.
日本口腔インプラント学会誌. 2021 年 34 巻 3 号 p. 190 より引用
そして、歯を抜かないといけない原因となった病巣の状態や唇側の骨欠損、骨吸収の状態を考慮して、それに加えて上図のような周囲組織の変化を最大限利用して、最も効果的な時期にインプラント治療を行うことが重要です。
術者が意図的にコントロールできるタイミングとしては、Type1、Type2、Type3が上がられますが、Type3が積極的に選択されることはほぼありません。
その理由は、Type2のタイミング、すなはち、軟組織が治癒した段階でのインプラント埋入ができないと判断するような場合にはソケットプリザベーションなどの骨増生を検討すべきだからです。
タイプ1(抜歯即時埋入)
タイプ1(抜歯即時埋入)は抜歯後の唇側の骨の状態を予測し、唇側の骨がある程度の垂直的高さを保ちうると判断すれば適応となり、その場合には治療期間の短縮が可能であり、患者さんに大きなメリットがあると考えます。
ただし、抜歯即時埋入は術後に唇側の骨が吸収され歯茎が下がるリスクがあり、GBRの併用など術後の歯茎が下がるのを避ける術式などを適応する必要があります。
【術前診査のポイント】
- 抜歯対象歯に隣の歯まで及ぶ骨吸収があると歯茎の退縮を防ぐことは不可能になるため、術前に唇側にどの程度の骨欠損があるか検査する。
- 歯根破折が原因での抜歯では唇側骨に裂開状の骨欠損を伴うことも多いので、CTなどの画像診断に加え、ブローピングなどでの検査を行う。
- CTなどで表面骨の厚みを検査する。
【前歯部抜歯即時埋入の適応条件】
- 抜歯のダメージが想定されず、抜歯後1mm以上の厚みがある唇側骨が残存すること
- 軟組織の歯肉が厚いタイプが望ましいこと
- 急性炎症がないこと
- 根尖・口蓋の残存歯槽骨にインプラント埋入初期固定を得ることができるだけの既存骨があること
【外科術式のポイント】
- 抜歯は愛護的に行い、術中に唇側の骨を損傷しないよう注意すること。
- 唇骨に損傷を与えた場合はタイプ2の術式に切り替えるか、インプラント周囲に骨増生を行いオープンメンブレンで被覆するか、減張切開を併用して感染閉鎖を行うこと。
- シミュレーションを行う場合にインプラントポジションを唇側よりに配置すると歯茎が下がりやすくなるため、唇側に2mm以上のスペースが空くように口蓋よりにインプラント埋入位置を設定する。
- インプラントのアクセスホールがなるべく唇側に位置しないように口蓋側に設計する。これが難しい場合には、セメントリテインなども技工士さんと相談の上選択するか、角度付きアバットメントも考慮する。
- インプラントを最終的な被せ物の唇側歯肉辺縁から少なくとも3〜4mm深くプラットフォームが位置するように設定する。
- ドリリングの際、硬い口蓋側の骨に弾かれ、ガイドを使用しても、唇側に傾斜されやすいため、口蓋側の骨に押し当てながら埋入するかピエゾサージェリー、埋入部位の平坦化を図るなどの工夫を行う。
タイプ2(抜歯4〜8週後のインプラント埋入)
このタイミングでのインプラント埋入は抜歯窩が完全に歯茎で覆われているので、
- インプラント埋入後の創閉鎖が容易である。
- 抜歯された歯が原因であった炎症が治癒している。
- 角化粘膜の量が増加しており、歯茎が厚くなっているころから、インプラント埋入後に審美的有利(歯茎退縮のリスクが下がる)である。
- 抜歯後に活動する骨吸収に関わる破骨細胞の活性が、この時期はすでに落ち着いていて、骨再生の活性が上昇しており、オステオインテグレーションに有利である。
などの利点があります。
このことから、前歯部におけるインプラント治療の埋入時期の第一選択となります。
【術前診査】
先ほどのタイプ1の適応条件から外れるものが、基本的にタイプ2の適応となります。
- 術前の骨状態をCT検査(骨幅及び裂開の有無と量など)
- 同時法GBRをするべきか否かの診査
- 元々薄い歯茎の場合には軟組織増性術を応用することもある。
【外科術式のポイント】
- 同時法GBR(contour augmentation)を用ことができる。(自家骨、人工骨、吸収性コラーゲン膜など)
- 減張切開を行い、テンションフリーでの創閉鎖ができる。
一方で、インプラント埋入後の歯茎の豊隆が不十分であり、隣の天然歯の歯茎と比べて凹んでることが多い。顆粒状骨補填材と吸収性コラーゲン膜の組み合わせを行った場合にでも、術後に骨補填材が押しつぶされて、このような状態になることもあるため、場合によって、スペース保持のため非吸収性膜(チタンメッシュ、チタン強化膜)の使用などが選択されます。
タイプ3(抜歯後3-5か月後の埋入)
骨のダメージが大きくタイプ2のタイミングでもインプラントの初期固定が得られない場合ですが、ソケットプリザベーションを行なった場合には、十分に骨と歯肉の治癒を待ちタイプ4で埋入することを選択すべきで、一般的に意図的には用いられません。
タイプ4(抜歯後6ヶ月以上の完全に治癒した状態でのインプラント埋入)
抜歯時に骨吸収が激しい場合に、GBRや、骨増生を行い、骨が成熟する6か月を待機する以外では意図的にこのタイミングで行うことはほとんどありません。
参考文献:中田 光太郎, 増田 英人. 審美領域インプラントの埋入時期の考察.
日本口腔インプラント学会誌. 2021 年 34 巻 3 号 p. 190