上顎洞挙上術におけるサイナスリフトとソケットリフトの適応について
上顎洞に骨を填入してインプラント治療の適応を広める上顎洞底挙上術において、残存骨の量ならびに歯槽骨の状態、洞底の状態などの情報からサイナスリフトを適応するかソケットリフトを適応するかについては臨床家として悩むところである。そこで、新しくもたらされた科学的な根拠も示しながらその適応について現時点での解説を行う。
以下の表は1990年代に示された書籍からの引用も含めその当時の基本の考え方を示す。
わたくし自身もこの考え方を基本としてインプラントの上顎洞底挙上術の適応を考えていた。インプラントの長径としては上顎における理想的な長さである12㎜とし、サイナスリフトなどを行う場合にはより長くて安定を求めるという意味で14mmの長径のインプラントも選択されていた。
山道らはソケットリフトの適応は、インプラントの対表面積を考慮し、骨との接する対表面積がより薄くない直径4.2㎜では残存する骨が9mm上でソケットリフト、直径4.7㎜では7mm以上でソケットリフトを適応し、12㎜か14㎜のインプラントを選択している。そしていずれの場合でも5mm以下は異時埋入・段階法を選択し、1回目はサイナスリフトのみで行うとしている。
覚本らも残存する骨が8~10mm上でソケットリフトを適応とし、12㎜か14㎜のインプラントを選択している。そしていずれの場合でも5mm以下は異時埋入・段階法を選択し、1回目はサイナスリフトのみで行うとしている。
これに対して、林はソケットリフトの適応は、挙上する骨の高さが3mm以下ではソケットリフト、3㎜以上洞底を挙上する場合にはサイナスリフトを適応すると述べている。
Cho Yらは残存骨とソケットリフト、サイナスリフトの成功率に関してシステマティックレビューを行い、その結果として、既存骨高径が高いと生存率も高い傾向にあり、96%の生存率が得られる既存骨高径は4.03mmで、既存骨高径が3mmの場合、生存率は約92%に低下し、既存骨高径が2mmになると生存率88%を下回ることを報告している。さらに、ソケットリフトにおける既存骨高径が4mm以上で生存率は93〜100%であるのに対し、既存骨高径が4mm以上では、既存骨高系と生存率に相関がなく、既存骨高径が4mm以下は報告が少なく、コンセンサスを得られていないとしている。
これらの文献も考慮し、わたくしは以下のような2010年より以下のような適応とした。
その後、これらの文献も考慮し、わたくしは以下のような2010年より以下のような適応とした。
その一方で、上顎洞底挙上術を伴うインプラントの長径に関しての報告がなされるようになってきた。Shomeらは、6㎜のショーとインプラントの予後は悪く一方で11mmを超えるインプラントでは洞底挙上術を行った場合にもその予後はよいことを示している。
また、Freenchらは、ストローマンインプラント4591本の後ろ向きコホート研究、観察期間10年:の多変量生存解析での対象、上顎臼歯部(上顎洞底挙上術を含む)に埋入したインプラント計1717本の解析で結果: インプラント残存率(7年経過時)>10mmインプラントが99%、8mmインプラントが97%、6mmインプラントが87%と上顎臼歯部におけるインプラント長径8mm以上では、インプラント残存率に有意差はなく、一方でインプラント長径6mmでは有意に残存率が低かったことを報告している。
これらの報告を含め、10㎜以上の長径で十分に長期予後が期待できると判断し、以下の上顎インプラントの長径の基本である12㎜を10㎜にシフトして2022年から適応している。