上顎洞底挙上術で使用される人工骨ならびにメンブレンの選択はどのようにしていますか?

上顎洞底挙上術で使用される人工骨ならびにメンブレンの選択はどのようにしていますか?

インプラント手術、そしてサイナスリフト、ソケットリフトなど上顎洞底挙上術を行う際に、以前は、自家骨をゴールデンスタンダードとして骨造成が行われてきたが、採骨部位の侵襲を避けるという観点と人工骨で骨造成を行っても高い予知性を得られることから、近年は人工骨を積極的に用いることが多く、自家骨を用いることは皆無となってきている。一方で自家骨には自身の骨細胞が含まれることから新生骨を誘導する点で有用であることは間違いない。以下にわたくしが使用した経験のある人工骨およびメンブレンを示す。

 

現在、本邦で購入使用することのできる人工骨ならびにメンブレンは以下のごとくである。

非常に多くの人工骨とメンブレンが販売され、本邦でも使用できることがわかる。これらの材料の特性については各メーカーからの資料を読み、各々の術者が選択することになる。その絶対的な基準はない。

 

 

では、上顎洞底挙上術ではそれを行う術者はどのように、人工骨を選択しているのか。それに対しての興味深い報告がある。: 田中譲治ら. ザ・クリニカルクエスチョン 臨床家が知りたい「あの」インプラントの疑問に論文と経験で答えるインプラントロジスト248名のアンケート調査結果から見えるもの. クインテッセンス出版. 2018によると日本インプラント学会の会員と専門医のアンケートでいずれの群においても、上顎洞底挙上術には、吸収性と非吸収性骨補填材料を使用するインプラント医の割合はほぼ等しいことが報告された。

 

 

そして、実際の骨補填材料に関する報告では、Torombelli, L.らの多施設二重盲検ランダム化比較試験で、上顎洞底挙上術クレスタルアプローチを行ったインプラント計38本(Bio-Oss 19本vsβ-TCP 19本)を対象に術後6ヶ月時に骨補填材の高径を計測した結果、どちらを用いても、合併症及び患者負担の少ない、臨床的にも同等の良好な結果が得られたとの記載がある。また、AghalooTらの上顎洞底挙上術を行ったインプラント計5128本(観察期間12〜102ヶ月)を対象としたシステマティックレビュー:自家骨vs同種骨vs異種骨vs人工骨でも、どの骨補填材料を用いてもインプラント残存率92%以上と臨床的に同等の良好な結果が得られたとの報告がなされている。

 

 

さらに、Yamamichiらの上顎洞底挙上術を行ったインプラント計625本での自家骨(単体)vs自家骨+DFDBA+吸収性HA(1:3:3)vs DFDBA+吸収性HA+非吸収性HA(1:1:1)を用いた検討結果でも上顎洞底挙上術成功率 96.4%で、自家骨(単体)< DFDBA+吸収性HA+非吸収性HA(1:1:1)の順に成功率が高かったとの報告をみる。

Tongらは、上顎洞底挙上術を行ったインプラント計1092本(観察期間6〜60ヶ月)を対象としたメタ分析の結果、インプラント残存率が、DFDB+HA(98%)>HA+自家骨(94%)>自家骨(単体)(90%)> HA(単体)(87%)であり、骨補填材料は単体使用より混合使用の方が成功率が高いと結論付けている。

 

 

上顎洞底挙上術に用いる骨補填材料での利点・欠点を以下の表に示す。

 

 

吸収性骨補填材料は、自家骨に置換されるため、再生組織の破壊がされにくいという特徴の他、「上顎洞に迷入した場合、吸収してくれるから安全である」との意見があるが、実際には骨組織と接している場合に緩徐に吸収されるのであり、洞内に飛散したような場合には基本的には自然孔から排出されない限り消失しない。また、吸収が早く呼吸圧などで九州府が進みボリューム維持が困難という面もある。一方で、非吸収性骨補填材料は、細菌感染に弱く、感染が生じた場合、一気に再生組織が破壊されるとされているが、上顎洞内は閉鎖された空間であり、増生骨に感染は起こりにくいともいえる。また、吸収せずに10年以上ボリュームが維持されるとの面もある。

 

 

このように、吸収性、非吸収性の骨補填材料の利点・欠点を知り、各々の術者が工夫して使い分けをしているのが現状である。山道らは、骨補填材料の利点欠点をうまく考えて層を分けて骨を填入するサンドウィッチ法をその書籍の中で紹介している。このような使用法も非常に興味深いと思われる。

 

 

総じて、骨補填材料の選択基準を考えると、顎堤の水平的あるいは垂直的骨増成(いわゆる外側性の骨欠損)であれば外形を造る意味でブロック骨移植やHA、異種骨の非吸収性骨補填材を選択し、積極的に骨に置換させるソケットリフトやサイナスリフト、リッジプリザベーションのような内側性の骨造成であれば、骨に置換する吸収性骨補填材する。この時に吸収までの期間が長い材料をサイナスリフトに使用した場合には上部構造装着後に感染や炎症、骨吸収を惹起することも少なくないリスクを考慮するということになる。

 

 

岩野らは上顎洞底挙上術では吸収性と非吸収性の選択を、洞の形態で選別するどのような条件下で吸収性骨補填材料を移植する優位性があるのかについて記載している。上顎洞底がU字型な形状で両側に骨があり、挙上された上顎洞底部が維持されやすく、GBR法のようにスペースメイキングがなされ、骨補填材料の破骨細胞による貧食と、骨芽細胞による新生骨の形成が起こりやすい場合には、吸収性骨補填材料を使用し、上顎洞底がフラットな形状でフラットな形状だと、呼吸による洞粘膜の圧がかかりやすくなるので、骨補填材料が早期に吸収するので非吸収性骨補填材料を使用するという考えをしめしている。

 

 

また、最近承認を受けたサイトランスとBio-ossの比較についても興味深いので引用して下にまとめた。

 

 

最後にわたくし自身が2022年の現在使用している人工骨とメンブレンを記載してこの項を終える。自家骨は同時に他部位のインプラント埋入を行い、インプラント窩から自家骨が採取された場合に使用し、膜に接する部分はリフィットを、人工骨はサイトランスを、開窓部には、KOKENのメンブレンを使用している。

 

 

 

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