口内炎の診断・治療

●口内炎(stomatitis)とは、口腔粘膜の炎症状態の呼び名です。

一般に口腔内にみられる炎症性病変をなんでも口内炎と呼ぶ傾向がありますが、それは病変が、その症状を変化させることと、その原因も含め、診断が容易ではないことに起因すると考えられます。
新歯学大辞典(新歯学大事典石川 梧朗 (著) :1985年)では口内炎は「口腔粘膜に諸種の原因の炎症性病変がみられる状態の総称、その病態は多岐にわたるため、分類も一元的には行いがたいおおまかな形態ないしは原因に基づく分類がなされている」と記載されています。すなわち、口内炎は、局所的原因による場合も全身的要因による場合もあり、頬粘膜、口唇粘膜、口蓋、舌、口腔底、頬粘膜、歯肉などに及ぶこともある口腔粘膜の炎症と定義されるのではないかと考えます。

 

●部位別の口内炎

口腔粘膜のどこに発生するかという点に汪目すると
歯肉炎(gingivitis)、舌炎(glossitis)、口唇炎(cheilitis)、口角炎(angula stomatitis)などの用語があり,それぞれの部位に限局した症の場合に用いられます。これらの部位以外の頬粘膜や口蓋や口底などにあける炎症は狭義の口内炎と呼ぶことがあり、頬粘膜炎、口蓋炎などとは呼ばないことが多いと言えます。また歯肉、舌、口唇などに限局せず、複数の領域にまたがるものも口内炎と呼ばれることがあります。

 

●口内炎の原因とそれによる分類

※原因の明らかな口内炎は狭義の口内炎とはするのは適当ではない場合が多いと思われます。

【細菌性口内炎】

細菌性口内炎は細菌によってもたらされる口内炎で歯肉炎や成人型歯周炎も含まれますが、これらは頻度が最も高いものの口内炎と呼ぶのはあまり適当ではないと考えます。すなはち、狭義の口内炎は原因が不明なことがおおく、そこに口腔内常在菌などが感染することで症状が修飾されることが多いからです。
一般に口腔粘膜の表面からの細菌感染は粘膜免疫の感染防御機構の働きで防御され、まれにしかみられません。急性壊死性歯肉炎・口内炎 (acute necrotizing ulcerative gingivitis/stomatitis : ANUG/S)は免疫力の低下などで一般の方にもまれに生じますが、多くの場合、HIV(エイズウイルス)との関連で日和見感染として起こることが知られています。
連鎖球菌性口内炎・咽頭炎、ブドウ球菌感染症、壊疽性口内炎の他、性感染症の淋菌性口内炎、梅毒、特異性炎の結核なども口腔内に口内炎として症状を呈することがあり、これらが細菌性口内炎と言われるものになります。
細菌感染症の発症は原因菌の侵入、定着、増殖、代謝産物や毒素の産生、マクロファージや好中球による員食や免疫食作用、リソソームなど蛋白分解酵素の放出、組織壊死など化膿性炎症の一般的経過と同様な過程が限局された口内炎の部分で生じます。連鎖球菌性口内炎では急性漿液性炎症の傾向が強く、結核や梅毒では慢性肉芽腫性炎症の傾向があります。

【真菌性口内炎】

Candidaは口腔内の常在菌の一種であり、その増殖によるカンジダ性口内炎は日和見感染の要因で起こっています。口腔カンジダ症と同義で、起炎菌はCandida albicansが最もおおく、その他にCandida graburata、Candida krusei、Candida tropicalisなどもみられます。

症例:カンジダ性口内炎

【ウイルス性ロ内炎】

以下に述べるようなウイルスの感染症が口腔粘膜に発症した場合を示し、ウイルスはそれぞれ細胞内で複製し、細胞に細胞変性効果を与えて病変を形成します。そのため水疱を形成することが特徴であり、診断の際に役立ちますが、水疱は口腔内の機械的な刺激により容易に破れて、びらんや潰瘍になりることも踏まえての診断が重要になります。ヘルペス性口内炎、帯状疱疹、ヘルパンギーナなどのウイルス感染による口内炎でヘルペス性口内炎はヘルペスウイルスI 型(HSV-I)、帯状疱疹は水痘帯状ヘルへスウイルス (VZV)、ヘルバンギナではA群コクサッキーウイルスがそれぞれ原因ウイルスです。

症例:ウイルスによると思われる口内炎:正中から右側のみに口内炎ができていることに留意する。びらんがメインではあるが、水疱も残遺と思われる病変も存在する。

 

【感染症以外の原因から起こる口内炎】

抗がん剤などの薬物により炎症が惹起される薬物性ロ内炎 (stomatitis medicamentosa)や金属アレルギーなどを含むアレルギー性ロ内炎 (allergic stomatitis)、白血病性口内炎 (leukemic stomatitis)、癌に対する放射線治療に伴う放射線性口内炎 (radiation stomatitis)尿毒症性口内炎 (uremic stomatitis)などがあります。

症例:金属のクラウンが被っている歯牙の圧痕とそれに伴う発赤を認める。機械的刺激と金属アレルギーによると思われる口腔扁平苔癬様病変

●口腔粘膜疾患の症状変化について

口腔粘膜は温度変化や機械的な刺激などを受けるため、その症状は刻々と変化します。水疱はびらんになり、紅斑もびらん、そして潰瘍になります。また、機械的な刺激により委縮したり角化が亢進したりします。
口内炎を症状からみて分類すると以下のようになります。
しかし、先ほど口腔粘膜の症状は変化すると説明をしましたが、その意味でとりあえずの初診時の臨床診断として用いることになり、一つの口内炎にいくつかの症状別分類が当てはまることも十分あり得るので、疾患分類としては適切ではない部分もあります。

【症状による口内炎の分類】

1 .カタル性口内炎(catarrhal stomatitis)
2 .紅斑性口内炎 (erythematous stomatitis)
3 .水疱性口内炎 (vesicular stomatitis)
4 .びらん性口内炎(erosive stomatitis)
5 .潰瘍性ロ内炎 (ulcerative stomatitis)
6 .偽膜性ロ内炎 (pseudomembranous stomatitis)
7 .アフタ性ロ内炎(aphthous stomatitis)
8 .壊死性ロ内炎 (necrotizing stomatitis)
9 .壊疽性ロ内炎 (gangrenous stomatitis)
10.肉芽腫性ロ内炎(granulomatous stomatitis)
11.出血性ロ内炎 (hemorrhagic stomatitis)
12.萎縮性病変(ロ内炎) (atrophic lesions (stomatitis)〕
13.角化性病変 (keratinizing lesions)

 

●カタル性ロ内炎とは

口腔粘膜の漿液性炎をカタル性ロ内炎と呼びます。この名称は原因などからの口内炎としての疾患を表すものではなく、さまざまな原因によって口腔粘膜に発赤、紅斑、浮腫が生じた状態を示す症状から分類された口内炎に対する呼称です。

■発症の原因

何らかの原因によって口腔の清掃状態が悪くなり、連鎖球菌などの口腔常在細菌が繁殖したり、口腔内の細菌叢の状態(バランス)が変わってカンジダ菌が繁殖して発症すると考えられています。健康状態がよいとき=免疫能の低下がない時には発症することははとんどなく、免疫力あるいは感染防御能の低下を背景として発症することが多いようです。すなわち、全身疲労、風邪、胃腸障害、ビタミン欠乏、抗菌薬あるいはステロイド薬の服用、過度の喫煙などによって、全身的な免疫能が低下することが誘因と言えます。急性萎縮(紅斑)性カンジダ症は抗菌薬(抗生物質)やステロイド薬の服用が誘因であることが多いようです。また、健康な人でも、熱傷(主として熱い食物の摂取による)や薬物(酸、アルカリ)を誤って口に入れた場合にもこの病態が生します。

症例:頬粘膜に生じたカタル性口内炎

症例:カタル性口内炎(萎縮性カンジダ症)症例:カタル性口内炎(口腔乾燥と全身的な免疫能の低下による)

■症状と経過

口腔粘膜に発赤、紅斑、あるいは浮腫が生します。口腔に熱感ないし灼熱感があり、いわゆる口が荒れた状態となります。また、辛い物など刺激のある食物によってしみたり、痛みを感じるのも特徴です。粘膜の炎症が強い場合は、粘膜表面が白くなり、睡液の粘りけが増してきます。適切に処置すれは、通常数日で症状は消失しますが、ステロイド薬の服用や免疫能が低下しているような場合には症状が遷延化し、持続します。

■治療とケア

痛みやしみるなどの症状を誘発する熱いものや刺激物の摂取をできるだけ避け、疲労や風邪などが誘因として考えられる場合、安静にして身体を休めるとともに口腔の清潔を保つように指導します。さらに、含嗽薬や口腔用殺菌錠あるいはトローチを使用します。
急性萎縮性カンジダ症の場合には、アムホテリシンB (ファンギゾン) のシロップを水で薄めて、1日3回程度含嗽したりなど、抗真菌薬を用います。

 

カタル性ロ内炎治療に用いる含嗽薬と殺菌錠,トローチ

含嗽薬
ポピドンヨード(イソジンガーグル)、アズレンスルホン酸ナトリウム・炭酸水素ナトリウム(ハチアズレ)、塩化ベンザルコニウム(ネオステリングリーン)

*カンジダ症の場合:抗真菌薬(アムホテリシンB)

殺菌錠・トローチ
アズレンスルホン酸ナトリウム(アズノールST)、臭化ドミフェン(オラドール)、塩化デカリウム(SPトローチ:明治)など

 

●アフタ性ロ内炎(再発性アフタを含む)

■アフタとアフタ性ロ内炎

アフタとは、境界明瞭な類円形の小さな潰瘍で、表面を白色ないし黄色の偽膜で覆われ周囲に発赤を認める病変です。有痛性で、その多くは瘢痕を残さすに治癒します。
アフタを生じる原因には、ウイルスの他、全身疾患の一部の症状が口腔内に出現する場合、その他、外傷によるもの、そして原因不明なものもあります。
アフタが多発し、粘膜炎を伴っているものをアフタ性ロ内炎と呼ひます。アフタが数個みられる程度で、粘膜炎も伴わない再発性アフタなどは、厳密にいえばアフタ性ロ内炎とは呼びにくいものがありますが、臨床的には区別がつきにくいことも事実です。

■原因

症例:外傷(咬傷)による口内炎(潰瘍)

■ウイルスによって生じるアフタ性ロ内炎

ウイルス感染によって生じることが確定されているアフタ性ロ内炎の初期症状としては、発熱・食欲不振などの全身症状から始まり、前後して口腔粘膜に多数の小水疱が形成され,すくに破れてアフタとなります。アフタはしばしば癒合して大きな不定形の潰瘍を形成します。有痛性のため、摂食に困難をきたすことがあります。通常1週間なら3週問で治癒しますが、まれに髄膜炎などを併発する重篤な例もあります。
なお、原因ウイルスの確定には、水疱内容液ならのウイルスの分離・同定やウイルスDNAの検出、急性期と回復期の血清抗体の測定などが用いられます。

■ウイルス性ではない非感染性のアフタ性口内炎の病型

大きさ 治癒期間 好発部位
小アフタ型 直径10mm以下 通常1~2個

時に数個

7 ~ 10日 口唇・頬粘膜・舌
大アフタ型 直径10mm以上 通常1~2個

時に数個

1か月程度 口唇・頬粘膜・舌・咽頭・口蓋
疱疹状潰瘍型 直径1~2mm程度 10~100個集簇 7 ~ 14日 口唇・頬粘膜・舌・咽頭・口蓋・歯肉

症例:アフタ(小アフタ)性口内炎

 

症例:アフタ性口内炎

症例:アフタ性口内炎

 

■治療・ケア

①再発性アフタに対する治療においては、原因が不明であることも鑑み、ステロイド含有の局所療法剤 (デキサルチン, ケナログ, アフタッチ, アフタシールs , サルコートなど)や免疫抑制剤の投与などの対症療法が中心になります。これらの局所療法剤は、病変部の清拭と含嗽後に少し乾燥させて貼付します。病変部の綿球・綿棒による清拭時に、偽膜を無理には
がす必要はありません。軟膏は小さな綿棒で, 1日数回厚くならないように貼布します。低出力レーザー照射にて、鎮痛効果や治癒の促進効果がみられることもありますが、機械的な刺激を与えることになること、間違った診断下にレーザー照射をすることのリスクを考えると適切とは多めない部分もあります。
このような場合には、易感染性や口腔カンジダ症の合併などの有害事象が見られることがあります。

②口腔内の清掃を通常の歯みがき(ブラッシング)とブラッシング後に、含嗽剤を用いたうがいを行います。含嗽剤には殺菌性や抗炎症性のものがありますが、症状・刺激性によって使い分けます。嗽水は40 ℃前後に温めると刺激が少ないと考えます。

③栄養の維持
刺激物を避け、健常時と同様の食事がとれるようにします。患側を使わない,スプーン使用などの簡単な工夫や、食事の前に病変部への貼付剤や保護床の使用も効果があります。嚥下障害を併発した重篤な場合には,経管・経静脈栄養法を行うこともあります。
★再発性アフタにおいて注意しないといけない全身疾患:べーチェット病
べーチェット病は口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)の他に、眼症状、皮膚症状、外陰部潰瘍を主症状とする多臓器に対する侵襲性の原因不明の炎症性疾患で、急性発作を繰り返しながら慢性に経過します。本症では、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)は必発で、口腔の病態からだけでは、再発性アフタとの鑑別は困難です。
■べーチェット病における治療の注意点
ベーチェット病は、遺伝的素因に細菌感染などの外的環境因子が加わり発症するものと考えられています。特に口腔連鎖球菌が重要視されており、抜歯などの口腔における観血的処置は発症・病状の増悪因子となるため、全身症状の増悪時、ロ内炎の多発時は積極的な治療を避けるべきです。また歯科治療時の浸潤麻酔など注射針による潰瘍形成にも注意を払う必要があります。

●紅斑やびらんを呈する口内炎
(金属アレルギー、薬物アレルギー、びらん型口腔扁平苔癬を含む)
紅斑やびらんを呈する口内炎とは、口腔内の粘膜が一部薄くなるあるいは委縮することで紅くなったり、それが粘膜の表層欠損となりびらんを生じたり、さらにひどくなって潰瘍を生じたるする口内炎です。

紅斑やびらんを呈する口内炎の特徴としては、口内炎が口腔内の一部に限局せず、口腔全体に広がる傾向にあること、強い疼痛があり、口を動かすことができないこともあること、症状がひどくなると発熱、全身倦怠感が発現し、患者はうがいをすることぐらいしかできず、精神的ストレスも強くなり、口腔衛生状態も悪化し、口腔全体に痛みが広がるなどがあります。

■紅斑やびらんを呈する口内炎には
① 多形滲出性紅斑
② 広範囲の皮疹,粘膜疹,眼症状に加えて重篤な全身症状を伴うStevens-Johnson症候群
③ びらん型口腔扁平苔癬(皮膚の扁平苔癬とは異なる。金属アレルギー、免疫異常が原因)
④ 剥離性歯肉炎(歯肉部の粘膜上皮層の剥離が特徴)
⑤ 天疱瘡、類天疱瘡など(上皮基底膜部に自己抗体が存在)
に関連して発症するものもあります。

症例:剥離性歯肉炎

症例:壊死性歯肉炎
症例:紅斑やびらんを呈する口内炎:多形滲出性紅斑

 

 

 

 

症例:びらん性口唇炎

症例:天疱瘡による口内炎

■紅斑やびらん性ロ内炎の治療

紅斑やびらんを呈する口内炎の治療は、非常に困難です。ステロイド製剤の局所投与だけでなく、ステロイド剤の全身投与が必要な場合もあります。重篤な場合には薬物療法と同時に,全身状態の改善も急務です。さらに二次感染の予防も大切で、もしすでに感染している場合は、それを増悪させないために徹底したプロフェッショナルによるロ腔ケアが重要となります。本疾患に対して,ロ腔ケアは大事な治療の1つです。

重症例では、経口摂取を制限し、経鼻経管胃チュープによる栄養法を行います。症例によってはⅣH (中心静脈栄養)を使用することもあります。口腔内にものを入れないことで、口腔粘膜に機械的刺激を与えないようにすることが最優先になります。

重症例では口に液体を含むことさえ難しいことがありますが、含嗽をすることは最低限必要で、できるだけ頻回に行うように指導します。粘膜に強い刺激を与えるタイプの含嗽剤や、一般によく消毒薬で使用されているイソジンガーグルも症例によっては強い疼痛を起こすので、避けたほうが良いこともあります。そのため含嗽薬剤で粘膜が痛い場合は、含嗽剤の選択にこだわらず生理食塩液や蒸留水でも十分で、少し加温するとよりいっそう刺激が少ないでしよう。ブラッシングも、歯プラシのヘッドが小さく毛の軟らかいタイプを使用します。小刻みにヘッドを横に動かし、歯頸部に毛先が当たる場合は力を入れないようにします。歯間プラシやフロスも限られた部分をきれいにするには有用です。しかし、慣れてないと逆に粘膜を傷つけてしまうため炎症の範囲を広げてしまいます。専門家が行うロ腔ケアも積極的に活用したほうが良いかもしれません。

 

●潰瘍性口内炎

潰瘍性口内炎は、紅斑やびらんがさらに進み、口腔粘膜に潰瘍を生じた状態を呈する口内炎の総称で、歯や義歯による機械的刺激、細菌やウイルス感染、放射線や化学薬品による損傷などの局所的原因で、紅斑・びらんからさらに進行する場合と、白血病や膠原病などの全身的な疾患の口腔粘膜症状として起こることがあります。一般に粘膜の潰瘍は組織学的には粘膜筋板より深層の組織欠損とされていることから、より重篤な口内炎と考えられます。

 

■潰瘍性口内炎の原因

1)歯や義歯などの機械的な刺激
歯や不適合な補綴物(詰め物や被せもの)、割れた義歯の鋭縁などの機械的な刺激によ
って生じる粘膜表面が傷つき、粘膜自体が壊死し、脱落して潰瘍が形成されます。これ
らはいわゆる褥瘡性潰瘍と言われ、新生児における先天歯の慢性刺激によって生じるリガ・フェーデ病も含まれます。このような機械的な刺激やいわゆる傷が原因でできた潰瘍は一般に境界明瞭で、周囲には角化した粘膜がわすがに隆起し、潰瘍底は黄白色ー赤色の肉芽組織様を呈します。このような潰瘍性口内炎は癌性潰瘍との鑑別が重要です。癌性潰瘍では癌細胞の周囲組織への浸潤によって硬結が生じているのが特徴でこの点から鑑別が可能です。潰瘍性ロ内炎では、まず明らかな刺激を除去し、ステロイド含有軟膏や痛みが強い場合は非接触性のステロイド剤の噴霧などを行い、含嗽剤などを投与し、様子を見ます。その中で、 1 ~ 2週間経過しても変化がないものや拡大傾向のある場合は癌性潰瘍を疑い、細胞診や組織新など病理診断を行います。
症例:熱傷によると思われる口内炎:診断には問診も重要になる。 

症例:癌性潰瘍(舌がん)

症例:癌性潰瘍:アフタ性口内炎との鑑別が重要である

2)細菌やウイルスの感染
細菌感染による潰瘍性口内炎の中で比較的頻度の高い疾患としては、急性壊死性潰 瘍性口内炎(Acute Necrotizing ulcerative stomatitis:ANUS)があります。この病変はワンサン口内炎とも呼ばれ、歯肉嚢内の紡錘菌やスピロへータなどが急激に増殖した結果、歯肉縁や他部位の粘膜に潰瘍や壊死を生じるものです。症状としては、壊死部の激しい痛み・歯肉出血・ロ臭・発熱や所属リンパ節の腫脹などがあります。本疾患は若年者から中年にかけて発症し、その誘因としては極端な疲労やストレス、担癌状態など免疫能の低下が挙げられます。ANUSにバクテロイデスなどの細菌が関与し、病変したものは壊疽性口内炎(水癌、Noma)と呼ばれますが、本邦で見ることはほとんどありません。
それ以外の細菌としては、結核(結核菌)、、梅毒(梅毒トレボネーマ)、淋病(淋菌)などがありますが、これらの感染者数が減少してると考えられる感染症も、H Ⅳ患者の増加とともに増加傾向にあります。
結核菌によるロ腔粘膜の潰瘍は浅く、有痛性で舌やロ蓋に好発し、梅梅は主にロ唇に硬結の中央部が陥凹した無痛性の潰瘍やびらんなどを認められます。淋菌による口内炎は紅斑を伴った潰瘍が多発してみられることが特徴と言えます。
また、潰第性口内炎を引き起こすウイルスにはエイズウイルスやサイトメガロウイルスなどがあります。
これらの潰瘍性口内炎の治療は口腔内を清潔にし、補液などで脱水の改善を図り、栄養補給と安静にすることですが、二次感染予防のために抗菌薬を投与することもあります。

3)放射線や化学薬品などによる潰瘍性口内炎
抗がん剤や頭頚部がんに対する放射線治療に合併して生じる粘膜の炎症は、不整形のびらんや潰瘍をつくり、広範囲にわたります。放射線障害は、唾液腺にも及ぶため口腔乾燥症を惹起し、びらんや潰瘍は遷延化し、難治性となります。
放射線や抗ガン剤による潰瘍性口内炎の治療は以前から、バリターゼ含嗽液(バリターゼ局注用2V、含嗽用ハチアプし8g、4 %キシロカイン液3ml精製水、全量400ml) やキシロカインビスカスなどを用いて除痛を図るなどが行われてきました。基本的にはそのような含嗽薬とともに、口腔内の清掃が重要になってきます。

4)全身的疾患に関連した潰瘍性口内炎
急性および慢性白皿病の約80 %は何らなの口腔粘膜症状(口内炎)がみられるとされています。その成因は不明ですが、白血病細胞が末梢血管に塞栓することによって生じるとも考えられています。
全身性エリテマトーデス(SLE)では軟口蓋に潰瘍が出現することがあります。また、原因不明で消化管粘膜瘍などを形成するクローン病でも口腔粘膜に辺縁不整の潰瘍な生しることがあります。しかし、その成因は不明です。
これらの濆瘍性口内炎に対しては、原疾患への治療とともに対症的にステロイド含有軟膏や貼付剤、噴霧剤などで対応します。

症例:潰瘍性口内炎:クローン病の患者さんにみられた潰瘍性口内炎

症例:全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う潰瘍性口内炎

●口内炎に対する治療の実際

【栄養管理・休養】

■食事:口内炎の疼痛が強い場合でも、経口摂取が可能であれば、なるべく口から食べ物を取ってもらうことが重要です。まず、症状の程度に応じて食事の形態を工夫します。すなはち、軟食(全粥,五分粥,三分粥など)に副食(おかず)もそれに応じて軟らなく、細なく、刻んだり、さらに、おもゆ、野菜スープ、牛乳など流動食やミキサー食などが必要な場合もあり、人工濃厚流動食(エンシュアリキッド、クリニミール、ハーモニックなど)を用いることもあります。
経口での水分や食物摂取が十分にできない重篤な場合には補液( 5 %ブドウ糖注射液、ラクテックDなど)による脱水改善、栄養改善を図ります。
それとともに、重要なのが休息をとって、十分に体を休めてやることです。

【薬物の全身投与】

口内炎の治療として、薬剤の全身投与を行う場合は非常にまれということになります。投与方法としては点滴静注と内服がありますが重症の口内炎で摂食や飲水が困難で脱水がみられるなど補液が必要なときは、積極的に補液目的で点滴静脈注射を用います。
例えば、壊死性潰瘍性口内炎などでは急性症状が強く、発熱や倦怠感などの症状が重度なものがあり、これらに対しては抗菌剤(ペニシリン系やセフェム系の抗生物質などを1日1 ~ 2 g、 2回に分けて)を点滴静注します。摂食時痛などのために経口摂取量 (水分、栄養)が少ない場合や、高熱時などは補液量を増やし、カロリーとしての糖質を含む輸液を行います。
重症型の薬物アレルギーや尋常性天疱瘡など全身に及ぶ病変で症状が口腔粘膜に出現したものに対しては、副腎皮質ホルモン剤であるステロイド剤(プレド二ン1日20 ~ 40mg やデカドロン1日1~6mgなどを3回に分けて)を内服処方します。通常、1 ~数週間で効果がみられますが、疾患によっては症状が蔓延化し長期にわたる場合があります。ステロイド投与が長期にわたる場合には有害事象の発現、薬物相互作用、二次感染予防、治癒後の薬剤減量に注意を要します。

 

■難治性口内炎に対する漢方

難治性の口内炎に対しては以下のような漢方を用いることもあり、その有効性が報告されてきています。
ツムラ半夏瀉心湯エキス顆粒(医療用) 1g 口内炎
ツムラ黄連湯エキス顆粒(医療用) 1g 口内炎
コタロー黄連湯エキス細粒 1g 口内炎
ツムラ茵蒿湯エキス顆粒(医療用) 1g 口内炎
(桃田ら.日本口腔外科学会総会 徳島大・歯・口腔内科学  2018報告)

【局所投与】
症状が口腔内に限局する口内炎に対しては、
■含嗽剤、■トローチ剤、■口腔用軟膏、■貼布剤、■噴霧剤などを主に用います。

 

■含嗽剤

口腔内にびらんや潰瘍病変があると、歯プラシの物理的刺激や歯みがき剤による化学的刺激により口腔清掃が不良になります。歯ブラシは歯の部分のみで小刻みに動かし、なるべく粘膜に触れないようにするとともに、歯みがき剤は使用しないように指導します。さらに,口腔清掃不良に陥りがちな口腔環境の含嗽による改善と含嗽剤の中に含まれる薬の効果を期待して含嗽剤を用います。含嗽はつらくなければ何回行ってもよいですが、軟膏塗布や貼付剤使用前には含嗽剤を使用するようにします。含嗽薬の作用には①消炎作用、②消毒作用、③抗菌作用があります。
消炎作用を有するものとしては、アズしン製剤(含嗽用アズレン錠、含嗽用ハチアズレなど)があり、散剤、顆粒状剤、細粒状剤、錠剤がありますが、いずれも水や微温湯に溶解し1日最低でも数回、食後ならびに就寝前に用います。白血球遊走阻止作用による消炎作用や創傷治癒促進作用があります。
消毒作用を有するものとしては,ヨウ素の殺菌作用を利用するホピドンヨード剤(イソジンなど)や界面活性化作用により抗菌性を示すネオステリングリーン、オラドールなどがあります。いすれも希釈して最低でも数回食後と就寝前に含嗽に使用します。表在性の細菌感染を伴うびらんや潰瘍性の口内炎に対して、また、痛みで口腔清掃不良な患者さんに対して感染予防として用います。ただ、アレルギーを有する患者さんもおられるのでその発現に汪意を要します。
抗菌作用を有するものとしてはアミノグリコシド系抗生物質であるフラジオマイシンを有するデンターグル Fなどがあります。消毒作用を有するものと同じ目的で使用され、含嗽により口腔内細菌増加の抑制やびらん・潰瘍性の口内炎の感染予防に有用です。
一方で、これらの消毒や抗菌を目的とする含嗽剤では、長期使用により口腔内の細菌のバランスが崩れ、黒毛舌(舌の表面が黒い細菌を含む舌苔でおおわれる)などの発症がみられます。■トローチ剤

口腔内で徐々に溶解し、含嗽剤より薬剤効果が長時間持続することを期待したもの、含嗽剤と同じく消炎作用、消毒作用、抗菌作用を有するものがあります。消炎作用を有するものとしてはアズノールSTが、消毒作用を有するものとしてはオラドールなど、抗菌作用を有するものとしては複合トローチ明治などがあります。
使用は1日に4 ~ 5回、食間に口中にて、噛まずに長時間留めるように舌下や頬粘膜と歯肉の間などで唾液により溶かして用います。

■口腔内用軟膏

軟膏は病巣への付着性を高め、長時間の薬剤効果を得るもので、再発性アフタやロ腔扁平苔癬などの小範囲の口腔病変に対してや、カンジダ症やウイルス性疾患で口腔内に限局する場合に用います。軟膏は食物摂取や唾液により流されやすいので、1日3回食後と就寝前に口腔清掃・含嗽後、指または綿棒により軟膏を病巣に塗布します。その種類としては消炎作用、抗菌作用を有するものと、抗ウイルス剤、抗真菌剤などがあります。
再発性アフタやロ腔扁平苔癬に対しては、消炎作用を有するトリアムシノロン(ケナログなど) ,デキサメサゾン(アフタゾロン,デキサルチンなど) ,ヒドロコルチゾン(テラ・コートリル軟膏,デスハコーワなど)など副腎皮質ステロイド剤がよく用いられます。感染を伴ったアフタに対してはテトラサイクリンパスタなどを使用します。薬剤や基剤の違いにより、味、適用感が若干異なります。抗菌剤・ステロイド剤の使用により、口腔内の細菌のバランスが崩れ、口腔カンジダ症が発生することがあり、このような場合には、急性偽膜性カンジダ症に対する抗真菌剤(フロリードグル)を用いて対応します。
軽症の単純疱疹,帯状疱疹には抗ウイルス剤のアラセナーA軟膏が有用で、発病初期であれば非常に有効です。疼痛が強<く、食物摂取が困難な壊死性潰瘍性ロ内炎, 多発性の再発性アフタ、びらん性扁平苔癬、へルベス性ロ内炎などの患者には食事前にキシロカイン軟膏など麻酔薬を塗布し、疼痛の軽減を図ります。

【フコイダン療法】
「フコイダン」とは、モズクやメカブ、昆布などの褐藻類などのヌルヌル成分の中に含まれる多糖類のことです。海藻類の中のヌルヌル成分の中に多く含まれることが判ったのが「フコイダン」で、乾燥重量の約4%含まれます。
「フコイダン」は、硫酸化多糖類の仲間で海藻の種類によっても異なってきますが、モズクには特に「硫酸化フコース」「フコース」が多く含まれているといわれ、この「硫酸化フコース」「フコース」が、正常細胞をより強化(免疫力強化、マクロファージの活性化、NK細胞の増強活性化)し、粘膜を賦活化し、正常にしていくことが報告されています。
このフコイダンの軟膏が、口腔扁平苔癬を含む口内炎に効果的であることが示されてきています。

 

薬効 一般名(組成) 商品名 内容量 適応
ステロイド剤 トリアムシノロンアセトニド ロ腔用ケナログ 0.1 % 2 g,5g 再発性アフタ

ロ腔扁平苔癬

ステロイド剤 デキサメサゾン

 

歯科用アフタゾロン

デキサルチン軟膏など

0.1 % 3 g,

0.1 % 2 g,5 g

再発性アフタ

ロ腔扁平苔癬

ステロイド剤複合剤 ヒドロコルチゾン1 0 mg・塩酸 テラ・コートリル軟麕オキシテトラサイクリン30mg/ 1 g テトラ・コーチゾン軟膏など 5 g 再発性アフタ辺縁性歯周炎
抗菌剤 塩酸テトラサイクリン

 

歯科用テトラサイクリンパスタ・テトラサイクリンCMCべースト 3 % 5 g 再発性アフタ
抗真菌剤 ミコナゾール フロリードグル経ロ用 2% 5 g カンジダ症
抗ウイルユ剤 ビダラビン アラセナーA軟膏 3% 2/5/10g

 

帯状疱疹

単純疱疹

麻酔剤

 

リドカイン キシロカイン軟膏 5%

 

疼痛の強い口内炎
低分子フコイダン PFクリーム 10g 口内炎・口腔粘膜疾患

■貼布剤
限局した範囲の口内炎に対して、病巣への付着性を高めて長時間の薬効を期待するもので、軟膏よりさらに付着性が高いといえます。病変を被覆することにより食物などによる刺激を緩和する効果もあります。
消炎作用を有するものとしてアフタッチがあり, 1日数回、食後や就寝前に含嗽後、貼付します。抗菌剤を含むものに歯科用フラジオマイシンセルデントがあり、感染を伴う口内炎に貼布します。

 

薬効 一般名(組成) 商品名 内容量 適応
ステロイド剤 トリアムシノロンアセトニド アフタッチ 0.025mg 再発性アフタ
ステロイド剤複合剤 硫酸フラジオマイシン

0.25 mg・酢酸ヒドロコルチゾン0.125 mg

フラジオマイシンセルデント 感染性口内炎

■噴霧剤
噴霧剤としては、ステロイド剤や表面麻酔剤、人工睡液などがあります。多発性の再発性アフタや広範囲の扁平苔癬,、放射線ロ内炎に対して 1日2 ~ 3回患部にサルコートを専用の小型噴霧器を用いて噴霧します。

 

薬効 一般名(組成) 商品名 内容量 用法 適応
ステロイド剤 プロピオン酸べクロメタゾン サルコート 50μg/cap 1日2~3回 多発性再発性アフタ

口腔扁平苔癬

放射線性口内炎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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