抜歯を余儀なくされた歯牙に対して、即座にインプラント治療を行いできるだけ早くその歯の代わりになるインプラント治療を行いたいのが患者さんの希望であろう。患者さんの満足、患者さんのニーズの高まりから、歯科医の方としても抜歯即時埋入・早期埋入・早期荷重などは行いたいところであるが、リスクを伴うことも十分に理解しないといけない。
また、前歯部などではバンダルボーンの吸収も考慮しないといけないことも事実である。
以下に抜歯後の治癒機転を示すが、これを考慮していつインプラントを埋入するかを考えるべきである。一方でこのような抜歯後治癒機転は患者さんによる個人差も非常に大きいことも事実であり、その点が実際の臨床では難しい。
また、抜歯後の骨吸収に関しての文献的な考察として以下のポイントがあげられることも知っておく必要がある。
- 抜歯に伴う歯槽堤の吸収は抜歯後一年間に顕著に生じ、上顎で平均2mm、下顎で平均4mm垂直的に吸収する。Carlsson GE, Persson G. Odontol Revy 1967
- 抜歯後6ヶ月の歯槽骨辺縁の吸収は、垂直的に1.00±2.25mm、頬舌的に3.06±2.41mmである。Camargo JM. 2000
- 抜歯後2,3年の間に40%~60%骨幅が減少する。Mish CE. 1999
- 抜歯後3ヶ月から歯槽骨吸収が始まり、高さの変化より頬舌的吸収のほうが著しい。Schropp.2003
【抜歯後即時にインプラント埋入する時に気を付けなければならないポイント】
抜歯と同時にインプラント埋入手術をする機会は特に上顎前歯部でしばしば経験される。主に歯牙破折で、唇側の骨が薄いながらも存在する場合にその適応が考えられる。
メリットとしては、手術回数と治療期間の短縮を図れる(Lazzara1989,Parel SM1990)、理想的なインプラントの配置 (Werbitt MJ,Goldberg PV1992,Schults AJ1993)、抜歯窩の骨の保存(Shanaman RH1992,Denissen HW1993,Watzek G1995)、軟組織の適正な審美性の達成(Werbitt MJ1992)などが挙げられるが、逆に感染の危険性(GBRにメンブレンの使用)(Lazzara1989,Parel SM1990)、軟組織封鎖の欠如 (Werbitt MJ,Goldberg PV1992,Schults AJ1993)、抜歯窩を覆うフラップの裂開(Shanaman RH1992,Denissen HW1993,Watzek G1995)などのデメリットも指摘されている。
特に重要な点は軟組織の被覆でありこれに関してはメンブレンを使用すべきか否かが問題にある。メンブレンに関しては文献的にも意見の分かれるところであるので、以下にそれぞれの文献を紹介するので参考にされたい。
メンブレンを用いるとする論文
Guided tissue regeneration for implant placed into extraction sockets and for implant dehiscences: Surgical techniques and case reports. Becker W, Beker BE. 1990
Artzi Z, Nemcovsky C. 1997、Bone regeneration in extraction sites. Part1: simultaneous approach. Bragger U, hammerle CHF, Lang NP. 1996
Immediate transmucosal implants using the principle of guided tissue regeneration (Ⅱ). A cross-sectional study comparing the clinical outcome 1 year after immediate to standard implant placement.
メンブレンを用いなくてもよいとする論文
Schwartz-Arad D, Chaushu G. 1997
Placement of implants into fresh extraction sites: 4 to 7 years retrospective evaluation of 95 immediate implants.
Landsberg CJ. 1997
Socket seal surgery combined with immediate implant placement: A novel approach for single-tooth replacement.
Nemcovsky CE, Artzi Z, Moses O. 1999
Rotated split palatal flap for soft tissue primary coverage over extraction sites with immediate implant placement: Description of the surgical procedure and clinical results.
新谷は基本的には抜歯即時インプラント埋入の際にはメンブレンを用いない場合が多い。先ほど述べたように抜歯即時にインプラントを埋入する意味は、唇側に薄くとも骨が存在する場合であり、その吸収が十分に予想される場合であり、その点でGBRなどその後に唇側の骨の吸収が予想される場合になどには、即時埋入は避けるべきであると考えている。
ただ、適応をきちんとして行った場合の成功率は文献的にも以下に示す如く、高い成功率を収めているので、その点では適応さえしっかりしていれば、積極的に行ってもよいかと考える。Wagenberg B, Froum SJは1925本の抜歯即時埋入インプラントでの成功率が96.0%であったとしている。A retrospective study of 1925 consecutively placed immediate implants from 1988 to 2004.Int J Oral Maxillofac Implants. 2006 Jan-Feb;21(1):71-80.
【インプラントの埋入時期と成功するために考えるべきポイント】
歯牙を抜歯した後にいつインプラントの埋入を行うかを分類すると
- Immediate implantation (即時:抜歯と同時)
- Delayed implantation (待時:軟組織治癒後;6~10W)
- Late implantation (晩期:硬組織治癒後;6ヶ月後以上)
となる。
その時に大きく変化するものが、硬組織と軟組織になりそのマネージメントをどのようにするのかが重要になる。特に上顎前歯部は審美性に大きくかにょるす部分であるために軟組織のマネージメントが重要ではあるが、歯肉の厚みや形も含めてその個人差もあるため、それを十分に理解する必要もある。
また、骨に関しても上顎前歯部の骨が正常な解剖でも非常に薄いことは知られており、この点を以下に保存し吸収が生じないようにするのかが問題になる。歯牙破折においても、その後の感染で容易に唇側の骨が吸収することからその骨の保存状態の把握と以下に愛護的に取り扱うかについては非常に注意を要すると思われる。
【抜歯即時インプラント埋入におけるインプラントの埋入位置】
インプラントの埋入位置に関しては、 垂直的、近遠心的、唇舌側的そして方向を完全に把握してベストポジションへの埋入を考える必要がある。
その時に、天然歯とインプラント周囲の歯肉の厚みと高さはどのように異なるのかを知っておく必要がある。また、インプラントポジションをむやみに深くした場合には厚い歯肉の場合には歯肉炎のリスクが増し、薄い歯肉の場合には歯肉の退縮のリスクを考えないといけない。