伝えたいポイント
・どうして抜歯即時を選択したのか
・的心ドリルと的心ガイドの有用性
・セメントリテインかスクリューリテインか
・骨、歯肉の変化予測と対応
左側上顎中切歯(#21)の歯根破折 抜歯同時埋入症例
(20歳代 女性)
左側中切歯の歯牙破折で、他院で保存ができないと言われ。インプラント治療を希望して当クリニックを受診した。
右側の中切歯は失活歯で、根管治療後コアなどもなくレジン充填が行われていた。
左側中切歯はメタルコアとレジン前装冠での修復がなされていた。
明らかなフィステルはなかったが、唇側の骨が吸収していることが予想された。
X線像では、破折線(↓)は骨縁下まで及んでおり、保存不可能と診断した。周囲の骨の残存状態や感染の有無を考慮し、唇側の歯冠側には骨が存在するも歯根部分には根尖病変があり骨が欠損していると思われた。
- 抜歯後、待機埋入を行うと歯冠側の骨があまりないため、唇側が大幅に吸収し、それに伴って、歯肉の陥凹も生じ、それからンp骨造成では患者さんの負担が大きいと判断した。
- 的心ドリルでは、ドリルによって自家骨が採取されるため、CTでの抜歯窩とインプラント窩のギャップは自家骨である程度補填できると考えて、抜歯即時を選択した。
患者さんは、インプラントの術後約5か月でインプラント補綴により前歯が戻ってきたと喜んでいただけました。
LANDmarker(iCAT)の画像。理想的な歯冠形態を作成し合成後、インプラントの埋入位置を検討した。
- のちに示す骨形態などから、このような場合にはスクリューリテインにこだわらず、セメントリテインを選択すればよい。そのことの弊害は少なく、余剰セメントの除去を完全に行うことが大切である。
- 抜歯即時インプラントでは残存骨の形態から、唇側にドリルが流れやすいために、口蓋側に向けてドリリングを行うという勘どころを示す書籍もあるが、ガイドサージェリーではそのような勘所なしで予定された位置に埋入される。
LANDmarker(iCAT)による埋入部位のCT画像。パノラマ像で診た破折線がよりはっきりと分かる。根尖部の病変により唇側骨がないことも見受けられる。
隣接する天然歯が近く狭いスペースになるため、サージカルガイドを利用することでより確実に計画した位置に埋入ができる。
- 埋入するインプラントの先端ではしっかりとインプラント体が保持されるため唇側に骨を添加することで、予後の期待できる予知性の高いインプラント治療ができると判断した。
左側中切歯の抜歯時の所見。
唇側の骨を温存することが最重要で、できるだけ愛護的な抜歯を心掛ける。時間はかかっても決して乱暴な抜歯を行ってはならない。
根尖部に病変があり、抜歯窩の唇側の骨がないことがわかっている。歯冠側にある歯槽骨を決して壊さないことが重要である。
抜歯窩の根尖病巣(炎症巣)の除去。唇側の粘膜に骨はなく鋭匙の先が粘膜から透けて見えている(左図)。
この部分の不良肉芽組織を十分に掻把することが重要になる。時間がかかっても丁寧に行いたい操作である(右図)。
鋭匙は周囲にギザギザのある、鋭匙を好んで用いている。粘膜を指で押さえて、ゆっくりと擦ぐ様に肉芽組織を除去していく。
FINESIA Bone Level Tapered type 直径3.7mm/長さ14mm(京セラ)を埋入する計画を立てた。
Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を適合させ, ファーストドリルでドリリングを行っている所見である。
Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用い、セカンド、サードドリルで、インプラント窩の形成を行っている。
ガイドに沿わせてドリルを挿入することで、位置、方向が制御される。
この時に、変な抵抗や音がすることがあればガイドに対してドリルがやや誤った方向で進行している可能性であるので、その場合に無理に挿入しないようにする。
Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用い、所定の深さまでドリリングする、的心のドリルには切削された骨が付着してくるので、自家骨としてこれらの骨を使用する。
- 的心ドリルの場合に写真で確認できる以上の多くの骨が採取できる。そのため、ゴールデンスタンダードの自家骨移植が選択できるという利点がある。
Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用い、インプラント埋入窩形成後、インプラントの埋入を行う。
インプラントタイプ及びサイズ:FINESIA Bone Level Tapered type 直径3.7mm/長さ14mm(京セラ)。
抜歯窩への埋入ではあるが、インプラント体がガイドに誘導されながら適切な位置・方向で埋入される。
インプラントの埋入後の口腔内所見。
抜歯窩にインプラント体が埋入されているのが観察できる。
既存骨とのギャップに骨を填入するがその際、インプラント体内部のネジ穴に骨が入り込まないように、カバースクリューを装着する。
インプラント体と抜歯窩の残存歯槽骨との間にギャップが観察される。
既存骨とインプラント体の周囲のギャップに、ドリリングで得られた自家骨を填入する。
自家骨がドリリング時に比較的多く採取できるのも的心ドリルの特徴であると考える。
カバースクリューを外して、ヒーリングアバットメントに交換する。
ヒーリングアバットメントの周囲にも自家骨を置き、より骨ができるように配慮する。
人工骨を混合して使用したり、ヒーリングアバットメントの周囲に、テルプラグやスポンゼルなどを少量置くこともある。その後縫合することで、自家骨、人工骨が溢出しないようにして縫合する。
印象採得時と最終補綴物装着時確認Dental X-P。
予定された部位に埋入されている。臨在歯との距離の関係も含めて、この位置しかない位置に埋入されている。フリーハンドでは絶対に正確な埋入はできない。
最終補綴物装着時の口腔内所見。
思い切り噛めるとおっしゃられていました。見た目もかなり改善して、笑顔に自信が持てるようになったとのことでした。