口腔がん診断の最前線

はじめに

口腔がんに限らずがんの治療成績の向上には早期発見早期治療が重要なことは言うまでもありません。がんの早期発見にはPET-CTなどの画像診断を含む人間ドックなどの検診が重要ですが、被ばくなどの問題からも毎月、検診を受けることはできません。

これまでは早期発見が難しかったがんを、患者の負担なく診断できる方法の実用化が期待されています。血液の中に含めれるがんに特異的な遺伝子や、タンパク[腫瘍マ-カ-]などを測定する方法も考えられますが、前立腺がんに対するPSA以外は優れた腫瘍マ-カ-が各臓器のがんで発見されていないのが現状です

一方、唾液や糞便、尿などは血液などと違い、体に負担をかけずに採取できるのが利点です。唾液によるがんの早期発見に関しては、これまでの報告で、フェニルアラニンやカダバリンと呼ばれるタンパク質など54種類の物質を調べることで、口腔癌は80%、乳癌は95%、膵臓癌は99%の高精度で患者を見分けられると報告されています(文献)。これらの検査の実用化のためには、さらに複数施設を対象にした試験などのデータの蓄積と検証が必要になります。

このような検査が実現化されれば、非侵襲的に早期のがん発見が出来る素晴らしい夢のような検査が確立できる可能性があります。

 

腫瘍マーカーとは

体のどこかに腫瘍ができると、血液中や排泄物中に、たんぱく質や酵素、ホルモンなどの特別な物質が増えてきます。それが腫瘍マーカーです。腫瘍マーカーの役割は大きく以下の通りです。

  • がんの治療効果や治療後の再発を判定する。
  • 進行したがんを見逃さないための最低限の目安になる。

 

腫瘍の種類や発症部位に特有の物質と、そうでないものがあります。それを検出するのが腫瘍マーカー検査で、腫瘍の発生やその種類、進行度などを判断する手がかりになります。

ただ、腫瘍マーカーの数値が高いからといって、腫瘍が確実に存在することを示すものではありません。また、それだけで腫瘍が良性または悪性腫瘍かの判断はできませんし、どの臓器にがんができたかを特定することはできません。

さらに、癌の場合は初期には腫瘍マーカー値は異常を示しません。これは人によってそれらの物質の存在の有無やレベルが異なるうえ、仮に腫瘍ができていたとしても、腫瘍マーカーの出現や発生量が一様であるとはいえないからです。そのため、腫瘍マーカー検査は各種検査の補助手段として利用される他、治療効果の測定に用いられるのが一般的です。

腫瘍マーカーの産生量に個人差があるとしても、その増減を測定することは患者個人にとっては有用です。例えば、腫瘍マーカーを継続的に調べ、それが増加傾向にあれば治療がよい方向に進んでいないことを、減少傾向にあれば治療効果が出てきていることを、また低値の一定レベルで安定するか消失すれば完治したことを、それぞれ判断する手がかりになるからです。

特によく使われる腫瘍マーカーとしてはCA125、CEA、AFP、CA19-9、フェリチン、PSA、TPA、CYFRA、SCCなどがあります。

 

 

(図1) 各癌種において用いられる代表的腫瘍マーカー

http://telomelysin.com/article/41674122.html

臭いでがんを見つける?

癌細胞を匂いで早期発見しようとする「癌探知においセンサー」。呼気や体臭などの生体から発せられる匂いを判断して、疾病を発見する試みは、「癌探知犬」の研究などを通し、その有効性が高まっています。 今後は、疾患ごとの匂いを特定する生体臨床をはじめとする理学的アプローチと、センサーを開発する物理・工学的アプローチが必要ですが、現在、癌研究の専門機関や国内外の大学、研究機関と共同で研究開発を進めています。

癌探知犬を用いた疾患探知は以下のようにすすめられます

1.香り分子が嗅覚細胞を刺激すると、嗅覚細胞が信号を発する

2.嗅粘膜で信号を感知し、電気信号化して脳へ伝える

3.がんのにおいと認識する

4.知らせる

 

癌探知においセンサーを用いた疾患探知は以下のようにすすめられます

 

1.特定の香り分子だけに反応する

2.反応を検知する

3.知らせる

大学病院の医師

 

癌リスク判別装置としてがん探知においセンサーが開発されています。本格的な商品化を目指しています。癌細胞のみが発する「におい物質」を特定し、特殊な機械で体が発するにおいの中に、その物質が含まれているかを測定します。特定の香気成分の有無を一対一反応で正確に探知することが可能です (http://www.seems-inc.com/development/medical_treatment/)

ウイルスでがんを光らせる

正常細胞と比較して癌細胞は、細胞分裂に回数制限がないという特徴が挙げられます。

細胞分裂に関係した遺伝子が攻撃を受けて、損傷等した場合に正常細胞が、癌細胞に変化すると考えられています。つまり細胞の分裂周期に関連した遺伝子が損傷や変異を受けると細胞の分裂周期をコントロールすることができなくなり、無制限に細胞分裂がおこるのです。このような癌細胞特有の性質を利用して、細胞が増殖する際に働く特殊な遺伝子(テノメアーゼ)の一部をかぜのウイルスに組み込み、癌細胞の中だけで増え続けるようにしました。さらにクラゲから取り出した光を発する遺伝子を組み込み、人の癌細胞を植え付けたマウスに注入しました。その結果、ウイルスは、癌の本体や癌が転移したリンパ節で増殖し、特殊な光をあてると癌の部分が緑色に光るのが確認されました。このウイルスは癌細胞の中では100万倍に増殖しますが、正常な細胞では増えません。

このように癌細胞のみを光らせることができれば、手術の際の癌の切除範囲の同定に役立つものと考えられます。現在のCT検査などでは見つけにくい小さな癌や転移した癌も肉眼で確認することができるため手術で確実に取り除けるようになる可能性があります。

さらに、このような検査方法の精度が上がることで血中循環癌細胞(CTC)を同定できる可能性があります。転移が見つかるような進行した癌であれば、理論的には、血中に癌細胞が見つかるはずです。しかし、血中循環癌細胞が存在しても、その数は血液10ml当たり数個から数十個くらいのレベルです。血中を循環している癌細胞の半減期は1~2.4時間で、多くはアポトーシスで死んでいくことが知られています。したがって、血中を循環している癌細胞は進行がんでもそれほど多いわけではありません。血液10ml中には400億~500億個の赤血球、3000万~9000万個の白血球、および血小板など多くの血球成分が存在します。赤血球は細胞核がないので癌細胞とは簡単に分けることができますが、白血球は細胞核を持ち、癌細胞とは形だけでは簡単には区別できません。白血球の数十万から数千万に一個の割合でしか存在しないような癌細胞を検出することは極めて難しいと言えます。そのため、血中循環癌細胞を診断に利用することには限界がありました。

しかし最近は、CTCの測定技術の進歩により、検出感度や測定精度が向上してきました。

例えば、上皮細胞や癌細胞に特異的に存在する抗原マーカーを使ってCTCを回収し、顕微鏡で癌細胞の同定と数の測定を自動的に行なう検査機器が開発され、10万個から1億個の単核細胞中にわずか数個存在する癌細胞を特異的に検出することが可能になっています。そして、血中循環癌細胞の測定は予後の予測や治療効果の判定に有効な手段であることが報告されています。癌細胞のみ光らせる技術で、CTCの同定を試みる検討も進められています。

(図1) ヒトのテロメアーゼ活性

(図2) ウイルス感染により蛍光を可視化した癌細胞

 

噴きかけるだけで癌が光る魔法の試薬

スプレーして1分ほどでがん細胞を光らせて場所を把握できる試薬を、東京大学の浦野泰照教授と米国立保健研究所(NIH)の小林久隆主任研究員らが開発しました。1ミリほどの微小ながんでも見分けることができるため、外科手術や内視鏡手術でがんの取り残しを減らし、再発防止につながると期待されています。

そのメカニズムとしては、癌抗体を利用しています。癌抗体は、癌細胞の中のリソソームという所に取りこまれます。ふつう、細胞の中は中性の性質ですが、リソソームの中だけは、弱い酸性です。そこで、酸性のときだけ光る物質があれば、それを癌抗体につけて、癌細胞に取りこませれば、癌細胞の場所が分かります。この性質を利用して、肺癌や肝臓癌、乳癌などの癌細胞の表面にある酵素と反応して可視化を可能にします。この分子が癌細胞内に取り込まれて蓄積し緑色に光ります。人の癌を移植したマウスの腹部を開け、試薬を吹き付けると、正常の細胞の約20倍明るくなり、人の目で十分確認できるようになりました。 癌の診断には、陽電子放射断層撮影(PET)や磁気共鳴断層撮影(MRI)などが利用されていますが、1センチ以下の小さながんを見つけるのは難しいことがあります。そのため、小さな初癌を検出する方法が課題になっています。従来の検査にて検出できなかった癌細胞もこの試薬を用いれば同定できる可能性もあります。さらに、 通常、癌の治療法としては外科的手術が第一選択となることが多いですが、この切り取って治す方法には困ったことがあります。癌細胞は、見ただけでは、正常な細胞とはっきり区別がつかないのです。その点からも、この試薬を用いれば正常組織と癌組織の境界を区別する

このような技術の臨床応用がすすめば、転移した小さな癌も発見が容易になり、生存率の向上が望めるはずです。癌細胞の取り残しがなくなり、手術の成功率が上がると考えられます。

また一歩、がんの克服に、大きく前進する医療技術の進歩であると思われます。

(図1)酵素を標的とした発光のしくみ

http://www.asahi.com/science/update/1124/TKY201111240088.html

(図2) マウスの腹部中心に癌細胞が緑色に光る

 

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