歯科口腔外科領域の画像診断の最前線

はじめに

今日、画像診断の進歩は日進月歩であり、単純エックス線写真を始めCT(computed tomography)、MRI(magnetic resonance imaging)、超音波検査がそれぞれ発展しています。なかでもCTは1970年代に開発されてから、その有効性からまたたく間に全身領域に広がり、画像診断という用語の出現に寄与するほどの衝撃を与えました。我々、歯科医師が担当する顎口腔領域は狭小な領域に様々な臓器や構造物が近接して存在しており、当該領域の画像診断においては、これら解剖あるいは病態を判別するために高い解像度が要求されることもあり、各種診断機器の発展進歩が推し進められてきました。

また最近、3次元の形態情報のみならず、病態の生理的情報をとらえる事のできる画像検査も実際の臨床現場で応用されています。

そこで、本稿では現在、歯科領域に頻用されているコーンビームCT、3次元実体模型を使用した口腔外科手術のシミュレーションサージェリーおよび病態の機能情報を得る画像の代表格となったPET/CTについて解説します。

 

コーンビームCT:

冒頭でも述.ましたが、顎口腔領域は狭小な領域に様々な臓器、構造物が近接しており、高い解像度が要求されます。そのような中で、CTは繁用される診断機器の1つで、この要求に応えるべく現在の医科用CTでは対象物を一定の速度で移動させながら撮影するヘリカルCTへ発展しています。医科用CTでは多方向からエックス線を扇状に照射し、エックス線発生装置と対向して配置した1次元検出器を回転させることにより撮影を行います。これに対して歯科用コーンビームCTは歯科用に特化したCTで、エックス線管と対向する2次元検出器を用いてエックス線を円錐状(コーン状)に照射し、2次元データを取得します。この時にエックス線管と対向する検出器が1回転することで、断面像および3次元画像の作成が可能となります1)

エックス線管と1次元検出器が対向し、       エックス線管と2次元検出器が対向し、

エックス線は扇状(ファン状)に照射される        エックス線は円錐状(コーン状)に照射されるる

 

コーンビームCTの特徴(医科用CTと比較して)

利点

  • 空間分解能が高い
  • 撮影領域が小さいので被爆量が少ない
  • 金属アーチファクト(画像の乱れ)が少ない
  • 撮影時間が比較的短い
  • 装置がコンパクトで安価
  • 欠点
  • 撮影範囲が狭い
  • CT値を適用できない症例提示
  • 患者は31歳、女性の切歯口蓋部の無痛性腫脹、違和感を主訴に来院。歯科用コーンビームCTで画像検査を行いました。上顎前歯部根尖部〜鼻腔にかけて広がる占拠性病変の描出を認めました。病変は一部鼻腔底を押し上げ、骨吸収が見られます。金属アーチファクト(画像の乱れ)が少ないため画像の乱れがなく、高い空間分解能を示しています。臨床的には鼻口蓋管嚢胞でしたが、コーンビームCT像から腫瘍性病変も疑われ、全摘出手術に望みました。病理結果は線維性腫瘍であり、事前のコーンビームCTによる画像診断が有用な症例でした。

シミュレーションサージェリーとは

3次元実体模型の有用性—近年、歯科インプラント埋入術において、術前CT画像データより専用ソフトによる術前シミュレーションは頻用されつつあり、安全・確実な治療には重要な役割を果たすようになってきている。画像上シミュレーションは歯科インプラント学の領域で最も発展進歩をとげているとも言えるかもしれません。

一方、口腔外科手術においても、画像上のシミュレーションのみならず、CTデータから3次元実体模型を立体造形し、術前に顎顔面骨の模型で実際に近い形でシミュレ-ションし、手術の望むことが可能となっています。このような手法をシミュレーションサージェリーといい、受け口などの顎変形症の外科治療において術前シミュレーションサージェリーを行えば、手術の難易度、手順の確認や、術者の手術イメージをより具体的にできるばかりでなく、患者さんへの説明がわかりやすくなるといった利点があります。

 

造形方法

3次元実体模型の立体造形は、CAD(Computer Aided Design)で作成された造形物の3次元形状データから、断面形状データを作成し、それに基づいて、造形物を輪切りにした断面形状の薄板を作成・積層することで、あたかも立体等高線地図を作成するように造形物を作成する3次元積層造形法を用います。主な作成法には光造形法と粉末積層造形法があり、光造形法は紫外線に反応して硬化する液体樹脂にレーザー照射し、硬化層を積層するため、表面や内腔の微細構造の再現が可能であるのに対して、粉末積層造形法では素材として澱粉や石膏粉末などを使用することが多いのが特徴です2)

 

実際の手術シミュレーション

  1. 異常位置の第三大臼歯(智歯)抜歯術-抜歯のアプローチとしては下顎枝内側骨より患歯に到達することとしました。すなはち、下顎枝前縁切開から下顎枝に到達し、下顎枝内面を十分骨膜剥離しが顎変形症の手術で用いる特殊な鈎(プロゲニーハーケン)をかけ術野展開することとしました。このような手術の場合に術野が狭く、また術前のCTを詳細に検討しても三次元的解剖学的イメージがわかないため、本モデルによる術前シミュレーションを行いました。
  2. 口腔外科手術において下顎第三大臼歯(智歯)抜歯は日常的に最も頻繁に施行される基本的な術式です。しかしながら、症例によっては、例えばウインター分類3)classIII position Cの如く下歯槽神経に近接していたり、深部埋伏していると抜歯に難渋することもあります。紹介する症例は下記写真の如く、 左側下顎枝後縁付近に存在する高度位置異常をきたした埋伏智歯の抜歯症例でこの湯な場合に術前シミュレーションサージェリーが有用と考えます。術前のシミュレ-ションでは、内側骨切り部分の神経走行(赤色)のある下顎小舌や埋伏智歯(青色)をあらかじめ色分けすることで、患者の下顎小舌の位置、形態をモデルで確認できます。また、モデルの削合によって色分けした青色の埋伏智歯の露出を確認でき、削合量の参考となりました。さらに、切削器具を実際の方向から挿入してモデルを削合すれば、手術難易度、器具の挿入や実体に即した削合イメージをより具体的にできます。術前シミュレーションで行ったモデルの削合程度と実際の手術時所見および削合程度はほとんど近似しており術前に想定した範囲内で手術を行うことが出来、非常に有用でした。顎変形症の外科手術 –下顎枝矢状分割術-顎変形症の外科治療、特に下顎枝矢状分割術(SSRO)の下顎枝内側部分の骨切りでは絶対に血管神経束を損傷してはならないのですが、術野が狭く、下顎小舌や神経束を同定しずらい症例も存在します。特に変形が高度の場合には術前のCTを詳細に検討していても、解剖学的イメージがわかず、術前シミュレーションが有用であることがしばしばあります。内側骨切り部分を、実際にモデルを削合することで、術者の手術イメージをより具体的にできるという長所があります。難症例ではモデルを二個作成しておき、一個を保存確認用、一個を削合用に使用することで比較しながら術前シミュレーションができます。また、モデルを滅菌すれば術中に手に取りながら実際の手術が行うこともできます。

PET/CTとは

核医学検査は画像診断の一種類ですが、その特徴は単なる形態診断ではなく機能診断ができることにあります。すなわち病変の形態的な診断だけでなくどのような細胞活性をもつのかといった生理的情報を捉える事ができるようになってきました。このため頭頸部領域の画像診断、特に悪性腫瘍における核医学検査の意義はますます大きくなってきています1)

Positron emission tomography(PET)は核医学検査の1つであり、生物の基本的代謝物質であるブドウ糖をF-18で標識したもの[ブドウ糖類似体である糖ポジトロン核種Fluorodeoxyglucose(FDG)] を用いて行います。特に悪性腫瘍では腫瘍細胞が多くのブドウ糖を取り込むことから、その性質を利用してFDGが悪性腫瘍に取り込まれ、高集積することで診断をします。PET検査は悪性腫瘍の代謝機能の情報を得ることが可能となるため、腫瘍の良悪性の鑑別、原発部位の検索や再発などの評価等を行うことができるのです。またCT検査で得られる3次元形態情報と融合することによって、異常集積部のより正確な部位診断が可能となり、診断精度を向上させるPET/CTが有益です。

最近では腫瘍増殖能に欠かせないアミノ酸代謝を反映し、炎症細胞に集積しにくい11C-Methionine(MET)を使用したMET-PET検査も行われています。

おわりに

画像診断の最前線としてコーンビームCT、3次元実体模型を使用したシミュレーションサージェリーおよびPET/CTについて説明しました。今後もこれら技術の発展・進歩には目覚ましいものが予想されます。しかし、それらが、いかに進歩しても画像診断はあくまで推定であり、最終診断には画像診断はもちろんのこと、従来の視・触診などによる丁寧な身体所見採取から組織診断も含めた総合的な判断が必要なことは言うまでもありません。進化する画像技術をうまく使いこなして安全で高品質な医療の提供を図ることが望まれます。

 

参考文献

  1. 佐野 司 画像診断の最前線 別冊一般臨床家、口腔外科医のための口腔外科ハンドマニュアル’09 238-248,2009.
  2. 3次元画像の実際 増大号 JOHNS Vol.22 No.9 2006.
  3. 野間弘康・金子譲 抜歯の臨床 126-127,1991.

 

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