顎骨腫瘍治療「温熱処理骨・反復処置療法で顎骨を保つ」

はじめに

顎骨腫瘍の代表的なものにエナメル上皮腫がある、顎骨を温存させる方法としての反復処置療法とは

エナメル上皮腫は、顎骨に発生するもっとも代表的な歯原性腫瘍であり、歯牙腫とならび発生頻度が比較的高い。WHOの病理組織学的分類は、①充実型/多嚢胞型エナメル上皮腫、②骨外型/周辺型エナメル上皮腫

③類腱型エナメル上皮腫、④単嚢胞型エナメル上皮腫 に分けられている。さらに、充実型/多嚢胞型エナメル上皮腫は濾胞型と叢状型に大別され、濾胞型のほうが叢状型に比べて周囲骨梁間へ浸潤しやすく、再発を示すことがしばしば認められる。画像所見においては単房型や多房型の透過像病変として認められ、多房型のほうが前述の濾胞型を示すことが多い。また、臨床症状においては無痛性の顎骨の腫脹としてみられ、大きくなると顔面が非対称性となる。治療方法としては、画像所見、発生部位、病理所見などから総合的に考慮し決定されるが、統一された見解がまだ得られていないため、各医療機関により治療方法はさまざまである。主に本腫瘍に対する、治療方法は開窓術や顎骨切除などが行われることが多い。しかし、開窓術を行った場合では再発率は30~80%との報告があり、顎骨切除においては顔面形態の変形などを見ることが多い。

反復処置療法は、①骨再生を促し、速やかな形態修復を図ること、②腫瘍の取り残しによる再発を防ぐなどの目的で、開窓・摘出・などの処置と反復処置を組み合わせた治療方法である。方法は、まず開窓術により嚢胞の縮小と周囲骨組織の再生による外形の修復を図り骨性支持力が確保されてから周囲の健康組織を含めて腫瘍を完全に摘出する。その後、開放創とし定期的に瘢痕組織や骨組織を繰り返し除去し、骨再生を促進する。除去した組織は病理検査で腫瘍残存の有無を確認する。これにより、腫瘍の再発を軽減するだけではなく、顎骨の形態や機能を温存することができる。

温熱処理骨を用いた最新顎骨再建療法

エナメル上皮腫や下顎歯肉癌などの下顎骨腫瘍などにたいして、下顎骨区域切除術がしばしば行われる。そして、顎骨切除後の下顎骨再建では、連続性の回復だけでなく、再建部の三次元形態、強度そして術後の口腔機能に対する配慮が必要となる。従来、遊離腸骨移植あるいは顎骨再建用プレートが用いられてきたが、下顎骨が有する複雑な三次元構造を再建することは困難であった。現在われわれは、エナメル上皮腫など下顎骨切除に伴って生じた下顎骨欠損症例に対し、温熱処理骨移植による下顎骨の再建を行っている。

温熱処理骨移植による下顎骨再建術は、切除した下顎骨から腫瘍組織、軟組織、歯牙、歯槽骨および骨髄組織を除去した後、皮質骨を厚さ約2~5mmに削合する。次いで、皮質骨全体に直径約3mmの小孔を皮質骨全体に形成し、トレー状に成型した皮質骨をオートクレーブにて120℃、2.2気圧下で30分間加熱処理する。これを下顎骨再建用トレーとして、下顎骨欠損部へ移植して下顎骨再建用プレートで固定する。腸骨海面骨細片は、前腸骨綾より採取し、トレー内へ填入する。

実際に、経験した症例について供覧する。患者はXX歳男性で、下顎前歯部の腫脹を主訴に来院した。患者は、約15年前某歯科大学付属病院で下顎エナメル上皮腫と診断され、開窓術を数年間にわたり受けていた。その後約1年前から下唇部の知覚異常および下顎前歯部の腫脹を自覚し、受診した。

口腔内所見は、下顎前歯部~小臼歯部にかけてび慢性の腫脹と羊皮紙様感を認めた(写真上段)。パノラマX線所見では、下顎前歯部に境界明瞭で多房性のX線透過性病変を認めた(写真下段)。

手術は全身麻酔下にて行った。下顎下縁に沿った皮膚切開を行い下顎骨を露出させた後、 両側下顎第2小臼歯間で区域切除術を施行した(写真上段)。区域切除を選択した理由は、現病歴から病変が再発を繰り返し、経過が長期に及んでいたこと、さらに病変と下顎下縁との距離がCT上で10mm程度であったため、区域切除術を選択した。切除の安全域は約10mmに設定し、腫瘍周囲の軟組織は骨膜を含め一塊にして摘出した(写真下段)。

切除した顎骨は、腫瘍組織、周囲軟組織、歯牙、および骨髄組織を除去しトレー状に成形した後(写真上段)、前述の通り温熱処理を行った。その後、温熱処置した顎骨トレーを骨欠損部へ再植し、再建用プレートで既存骨と固定した。次いで、腸骨海面骨細片を採取し、再植した温熱処理骨トレーへ緊密に填入し(写真下段)創部を閉鎖した。術後セフトリアキソンナトリウム(ロセフィン®)と硫酸セフピロム(ケイテン®)をそれぞれ7日間点滴投与し、術後14日目で軽快退院となった。なお、術後の顎間固定は行わなかった。

 

術後1年経過時に撮影した3D-CT所見において、温熱処理した移植骨は既存骨と正着し顎骨の移行化が確認できた。また、術前の顎骨形態(写真左)と比較して、下顎骨の三次元構造の再建を行うことができた。

 

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