我々、歯科口腔外科医師が対象とする顎顔面領域においてインプラント外科におけるシミュレーション以外にもシミュレーション手術が有用な場合がある。軟組織の形態に関しては、シミュレーションを行っても、十分な成果を得ることができない場合も存在するが、こ硬組織レベルではシミュレーションは有効な場合が多い。
しかし、いかに顎骨レベルで左右の対称性を図ってもそれを覆う軟組織の問題があり、骨レベルで左右対称になっても整容的に満足の得られる結果となるか否かには、若干の問題が残ることも事実である。
症例は、エナメル上皮腫の摘出後に残存した下顎骨変形に対して、コンピューターシミュレーション、サージカルガイドの作製、三次元石膏模型によるモデルサージャリーを術前に施行したものである。
【症例】
患者:2X歳(男性)エナメル上皮腫の治療後、顎骨の膨隆残存し、患者より顔貌の非対称を治したいとの訴えがあった。圧排された下顎管の走行を三次元的に把握し、それを損傷しないように必要な骨削除の範囲と程度を把握する目的で、①CTデータの画像再構成による下顎管走行の把握、②コンピューターシミュレーションによる手術範囲の設定、③シミュレーションデータからのサージカルガイドの作製、④サージカルガイドと三次元石膏模型を用いたモデルサージャリーを計画した。
CTのDICOMデータをもとに、iCATダイアグノーシスソフトにて画像を再構成し、骨の膨隆部、および下顎管の走行を立体的に把握し、下顎管は下顎骨下縁を走行しており、オトガイ孔以外の骨膨隆部には下顎管は存在しないことがわかった。また、このDICOMデータから、モデルサージェリーのためにプリンター積層方式による3次元石膏模型を作製し手術計画とした。
次に必要な骨削除の範囲を把握するために、コンピューター上で健側の画像を反転させて重ね合わせを行い、これを通常画像に重ね合わせることにより削除すべき膨隆部分を明確にしました。
これらのコンピューターシミュレーションの結果をもとに、アクリルレジンブロックからの削りだしにより、実際の手術に使用するサージカルガイドを作製し、ブロックの頬側に付与した平面を手術操作時のガイドとし、設定した部位の削除を行うガイドとしました。
モデルサージャリーの所見と術中所見を示す。実際の手術において、モデルサージェリーと同様に、サージカルガイドを歯列に装着し、口内法で簡便に、かつ下顎管を露出・損傷させることなく骨膨隆部を整形した。
モデルサージャリーの所見と術中所見を示す。実際の手術において、モデルサージェリーと同様に、サージカルガイドを歯列に装着し、口内法で簡便に、かつ下顎管を露出・損傷させることなく骨膨隆部を整形した。