ソケットプリザベーションにより抜歯後の骨欠損を人工骨で補填したインプラント埋入症例
伝えたいポイント
- ソケットプリザベーションの方法
- ソケットプリザベーションに関する考え方
- 人工骨の使い方
- CTの評価とインプラント埋入深度のシミュレーション
左側下顎第2小臼歯ならびに第1,2大臼歯抜歯症例
(50歳代 女性)
左側の臼歯から排膿することを主訴に当クリニックを受診された。同部のパノラマX-P所見を示す。第2大臼歯が欠損し、ブリッジによる治療がなされていたが、第1,2大臼歯部の根尖性歯周病と歯牙破折(歯根破折)に起因すると考えられる歯牙周囲のX線透過像を認め、抜歯と同時に周囲の骨に存在する病巣の掻爬が必要と考えられた。
- 抜歯後、自然治癒を行うことで十分に骨の幅や、抜歯後の歯槽頂から骨がどれだけ下がって歯槽骨が形成されるのかなどを鑑み、ソケットプリザベーションを行う意味があるかを考える。
- ソケットプリザベーションを行うことは感染巣の完全な除去の上に成り立つことも重要である。不良肉芽組織を残存させるとソケットプリザベーションで骨を温存するどころではなく、骨を失う結果にもなる。
抜歯後、十分な不良肉芽組織の掻爬を行う。
鋭匙はスプーン部の周囲にギザギザが付いたタイプが従来のタイプに比して非常に掻把がしやすく、これを用いている。
最低でもx2.5-X5.5の倍率の拡大鏡を用い、すべての周囲の不良肉芽を除去し、新鮮な骨面が出ることを確認する。
すべての面を明視野に置き、手の感覚で取れているだろうという掻爬は不十分であることを認識することが重要である。
抜歯窩の最も深い部分には血流を誘導し抜歯窩の線維性骨化を促進する意味でコラーゲンを含有するスポンジタイプの人工骨であるリフィットをおき、その上方(浅い層)には顆粒状でやや吸収の遅いアパセラム-AX(京セラ)を置く。これにより、歯槽骨の上方の形態を確保する意味がある。
顆粒状の人工骨のさらに上方にはコラーゲンであるテルプラグを置き、さらに上方に止血剤であるスポンゼルを置くようにしている。
テルプラグを最上層に置くと、縫合してもしばしば脱落して、人工骨がソケットより溢出することもあり、それを防止するためにスポンゼルを置くと、そのような脱落がなく非常に良いという印象を持っている。
深部から「リフィット」➡「アパセラムEX」➡「テルプラグ」➡「スポンゼル」➡「縫合」
この時に固有歯肉の確保と顎堤の確保を第一に考え、完全閉鎖を目的にしないことが肝要である。感染は完全閉鎖により防げるのではなく、不良肉芽の完全除去により防げるのである。
抜歯ソケットプリザベーション直後と術後3か月目の口腔内所見を示す。歯槽骨の状態はCTで把握するが、この時実際に触診で骨の状態を知ることも重要な指針になる。
- 固有歯肉の状態、歯肉下の骨の状態を視診・触診で観察する。
- 完全に骨化を待つ必要はない。インプラント埋入は骨代謝を刺激し、骨化を促進する。
LANDmarker(iCAT)の画像。補綴主導を意識し埋入位置を計画した。
LANDmarker(iCAT)による埋入シミュレーション画像。CT画像(黄色点線部)に加え、参考値ではあるが骨質表示からも軟らかいと思われるが骨化しつつあるように見受けられる。術中は短針やプローブなどで十分に確認を行ってから形成を進めることが重要。
Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用いた。
Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を装着し、サーキュレーションメスで歯肉を切開・除去して、的心ガイドでスタートドリルから最終的なインプラント形成までを行う。このステップは通常のごとくである。
- 固有歯肉の幅を確認してサ―キュレーションメスを用いる。
- インプラント窩形成時に人工骨と残存骨の状況をドリルに着いた骨や、ドリリングで感じることも重要である。
- HAコーティングインプラントを選択する時にはタップを切ることも重要である。
通常通り、ドリリングを行い、その後、インプラントを埋入した。左側第2小臼歯、第1,2大臼歯部(#35,36,37)は、的心ガイド(iCAT)を用いてドリリングし、的心用のインプラント埋入ドライバーで埋入を行っている。
- インプラント埋入後、インプラントと周囲の骨の関係、人工骨から骨化している部分の骨の状態を短針やプローブなどで確認することも重要である。
手術内容:左側第2小臼歯、第1第2大臼歯(#35,36,37)インプラント埋入術
埋入トルク:25N/cm(#35),30N/cm(#36), 25N/cm(#37)
麻酔:笑気・モニター下
局所麻酔:2%キシロカイン(1/80,000Epi) 10.4ml
手術時間:39分
抜歯前(左上)インプラント埋入時(右上)印象採得時(左下)最終補綴物装着時(右下)のX線所見。プラットフォームスウィッチングの特徴が良く反映されていると思われる。超長期予後が確信できる。
最終補綴物装着時の口腔内所見。
術後。左側の第2大臼歯までを、しっかりと回復した。上部構造(歯の部分)を装着後は咀嚼機能も十分に回復でき、よく噛めると喜んで頂きました。